父親たちの星条旗 目次
政治の手段としての戦争
見どころ
あらすじ
「誤算」の日米開戦
真珠湾攻撃
日本の海軍の無能さ
軍産複合体
戦争の「悪夢」
山頂の6人
山頂に星条旗を掲げる
戦時公債キャンペイン
事実 truth とは何か?
アイラの脱落
それぞれの人生
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戦史・軍事史関係
史上最大の作戦
パリは燃えているか
グリーンゾーン
戦艦ビスマルク撃沈

山頂に星条旗を掲げる

  それにしても、上陸慣行から3日間で、日本軍の目立った反撃は目立たなくなった。もはや正面切って応戦することが可能な兵員数には足りなくなっていたのだ。占領・征服を「妨害する」という程度の能力しかないということだ。
  つまりは、もはや「無駄な抵抗」「自殺的行為」でしかなくなった。だが、ときおり、岩窟に潜んだ日本軍から執拗な反撃が加えられ、アメリカ兵の死傷者数も止めどなく増加していった。アメリカ側の優位のまま戦況は膠着していた。

  そこにふたたび、ワシントンからの政治的命令が届いた。
  「擂鉢山の頂上に星条旗を掲げよ!」というのだ。海兵隊第28連隊のある小隊に命令が伝達された。2月23日、若者たちは連隊旗(星条旗)を携えて、哨戒態勢で山を登っていった。報道写真係も同行した。
  大した反撃に出会うこともなく、彼らは山頂に到達して星条旗を掲げた。

  さて、星条旗を山頂に掲げるという行為は、硫黄島をとにかくも占領ないし制圧したという戦場の力関係、優越を明示するシンボルである。つまり、ワシントンは、国家政治の手段として利用価値の高い――見栄えの良い――シンボルを求めていたのだ。
  「日本を無条件降伏まで追い詰める日は近い」「完全な勝利は近い」というメッセイジを市民に発信するためだ。だから、財政危機を立て直すために戦時公債を買ってほしい、それが愛国者の義務ではないか、というわけだ。

■さらに政治の追い討ち■
  最前線からの戦況報告・情報は、ワシントンではそれぞれの政治的立場によって自由に――利害に応じて好き勝手に――解釈され色づけされる。
  「戦果」に気分高揚した海軍長官――大統領府の閣僚メンバーである政治家――が硫黄島を訪問した。前線の将軍たちは軍政官であり、片足どころか腰までワシントンの政治的磁場にとらわれている。まして、ワシントンの総司令部から海軍長官に同行してきた海兵隊の将軍は、長官に尾を振りまくる犬=道化師の役割を喜んで演じていた。
  彼にとっては、硫黄島の最前線で苦闘する兵士たちよりも、ワシントンでの地位を固めることに関心を向けていた。政府組織の一環としての軍とはそういう政治の力学がはたらく場なのだ。


  2人は擂鉢山の頂上に翩翻する星条旗を双眼鏡で眺めて狂喜した。そして上陸した。
  海兵隊の将軍は、「あの旗は合衆国海兵隊の永遠の記念品として保存したい」と言い出した。長官も同意した。
  というわけで、とんでもない作戦命令が下された。
  あの連隊旗を無事に回収し――そしてワシントンの海兵隊本部に保存する――、その代わりに別の星条旗を掲げ直せ、というのだ。

  ふたたび登頂作戦が敢行された。
  山頂では以前の旗が降ろされ丁重に折りたたまれ、別の肌竿が掲げられた。
  そのときも報道写真係が場面を撮影した。今度は、今まさに6人が旗竿を押したてようとしているシーンだった。この方が迫力があった――というよりも大衆受けする見栄えになっている――せいか、前の写真ではなく、完全なメイキング写真が報道用に使われることになった。

■2枚の写真■
  というわけで、山頂に星条旗を押し立てるシーンの写真は、最初に登頂を決行したときのものと、アメリカ軍が山頂を制圧してから別の星条旗を掲げたときのものと2種類が撮影された。そして、あとの方の写真が報道用としてメディアに掲載された。
  はじめの写真には、マイク・ストランク、レニ・ギャグノン、アイラ・ヘイズ、フランクリン・サズリー、ハンク・ハンセン、ラルフ・イグナトフスキーの6人が写っていた。あとの方の写真には、戦死したハンクとラルフはもはやなく、たまたま山頂にいた衛生兵ジョン・ブラッドリーと小隊長のハーロン・ブロックが加わることになった。

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