刑事フォイル第6話 目次
エースパイロット
原題の含蓄
戦時経済統制
石油燃料の配給体制
燃料横領事件
サマンサの潜入捜査
パブ・フラミンゴ
コニーの妊娠
コニーの転落死
レックスの覚悟
サマンサ危機一髪
犯行の手口
 
『刑事フォイル』作品索引
おススメのサイト
第2次世界戦争をめぐる作品
史上最大の作戦
空軍大戦略
医療サスペンス
コーマ
評  決
信州散策の旅サイト
下諏訪街あるき
小諸街あるき

第2シリーズ第2作 エースパイロット

  この物語は、戦争中の燃料配給体制のもとでの燃料横流し(闇取引)と当時の同性愛の問題をあつかっている。

■原題 Among the Few ■
  この原題には、先頭に来る語が何か略されている。おそらく One, A few など、きわめて限られた少数派を意味する言葉が。
  そういう文脈で直訳すると「少数者のなかでも・・・」ということだが、もっと具体的に言うと、「選ばれた少数者のなかのひとり(異端者)」あるいは「生き残った少数者のうちのひとり異端者)」となるだろう。
  文法上、副詞句――連用終止形――だけのこの題名は暗喩 metaphor なのだ。

原題の含蓄

  で、少数者とは、ここでは英空軍の戦闘機パイロットで、選り抜かれたテクノクラートとしての航空兵パイロットだ。戦闘機パイロットは頭脳優秀であるだけでなくきわめて高度な身体能力を求められたうえに、訓練兵のなかでも訓練に耐えられる者は少数だった。しかも、ドイツ空軍との航空戦は戦闘機パイロットに深刻な精神的・肉体的な消耗をもたらしたから、優秀なパイロットは次々に戦死していった。
  したがって、実戦に配備されてから数か月以上生き残る幸運なパイロットは少なかった。戦闘機乗りであること自体がごく少数であるうえに、生き残った者はさらに少数だった。
  というわけで、フォイル警視正の息子、アンドリュウと同期のパイロットで生き残っている者はほんの少数だという状況を前提した題名なのだ。
  原題の the few とは、おそらくそういう意味が込められている。定冠詞 the にはそういう歴史的・社会的な文脈が込められている。単純に「定冠詞+形容詞」の形ではない。


  というよりも、英語学的に見ると、定冠詞には、もともと「しかるべき物語」の文脈が圧縮されているものなのだ。
  そして、その少数者なかでもさらに当時異端とされた同性愛者が今回の殺人事件 who's-done-it 物語のターゲット――真犯人――なのだ。
  現代と違って、当時、同性愛者は性同一性障害とは認識されず、抑圧され排除され禁圧されるべき異端、禁忌だったのだ。
  このように現代の意味=文脈を最初に説明すると、「ネタバレ」になってしまうが、この記事は映画作品の物語や状況設定、人物設定を分析するための文章だから、あしからず。

  まあ、文芸作品の題名のつくり方に関する文法、語法の解説ないし論理学だと思ってほしい。映画の題名や文学作品の題名をこのように分析する記事はなかなかない。というよりも、そういう視座で分析をする映画評論家や文学者、研究者は日本にはほとんどいない。
  そういう問題の立て方は、日本ではほとんど顧みられたことがないようだ。
  私はヨーロッパ法制史・国家史の研究者だった経験から《映像社会学》《映像社会史》という新たな学術分野――知的な遊び、遊芸として――の開拓を試みているので、映像や文書資料の読み解きの技法のひとつとして、このサイトでは題名の書法的な解読を重要視している。そういう事情が、原題の解説の背景にあるのだ。
  映画や劇の制作者が、どのような問題意識や含蓄をもって、題名を考え出したのか、それを考えるのは作品を理解するうえで決定的に重要だと思うからだ。

第5話へ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界