ブレイクの妻、ジェインは高級そうな犬を連れて近くの森や野原を歩いて優雅に時間を過ごしていた。子どもがいないハーディマン夫妻は、犬には相当の金をかけていた。
だが、戦時下の食糧配給制度のもとで、人間にさえも満足な食糧が行きわたらない状況では、まして犬の餌がまともに手に入るはずがなかった。そこで、夫妻が犬の餌の供給元として頼ったのがレナードだった。つまり闇取引だ。
ジェインは森のなかの散歩中にいつも1か所だけ決まった場所を通ることにしていた。その場所に立つ樹木の枝には、犬の餌を入れた袋がかかっていた。袋のなかには、高級なハムの缶詰が詰められていた。ただし、」値段は通常の3倍以上の高額だった。
ところがその日、ジェインがレナードが木の枝にかけておいた袋にかまけている間に、犬は森の奥に行ってしまった。ジェインが慌てて追いかけて犬に追いついたときには、犬は地面を嗅ぎまわり、埋められた人の手を掘り出していた。
ジェインの通報を受けて警察が捜査を始めた。遺体はマシューだった。
フォイルとミルナーは、マシューが行方不明になった夜、ヘイルシャムで食糧品の闇取引がおこなわれ、防衛隊が一味に向けて発砲した事件を調べていた。防衛隊員にひとりは、偶然、銃弾が犯人のひとりに命中したようだと語った。
そう判断した理由は、悲鳴とともに「畜生!」と叫ぶ声を聞いたからだ。
ミルナーは「ダムではなくて、ダンと言ったのではないですか」と尋ねた。マシューがダンに誘われて闇取引に加わったとすれば、撃たれたのはマシューで、ダンに助けを求めたのではないか、と見たからだ。
隊員の答えは、「そうかもしれないが、はっきりとしない」だった。
だが、森のなかから胸部の銃創が原因で死んだマシューの遺体が発見された以上、マシューとダンは闇取引の一味であるのは確実だった。しかし、ダンは関与を否定している。
ダンとマシューが闇取引の一味だとすれば、若者2人を手下として使っていたのはレナードに違いないとフォイルは睨んだ。