刑事フォイル第8話 目次
隠れ家
ロンドン空爆
食糧の闇取引事件
ゲストハウス
マシューの遺体発見
アンドリュウの災難
ヴォードリー殺害事件
コリン・ファウラー
フォイルの職務復帰
 
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第2シリーズ第4作 隠れ家

  戦時下では「挙国一致」とか「国民が結集して」などという美辞麗句がメディアを飛び交う。だが、戦時下でも、いや戦時下だからこそ貧富の差や階級格差が歴然と示されることもある。
  今回の物語で描かれるのは、ロンドン在住の大金持ちたちが、連日の空襲の被害にあっているロンドンを離れて、地方のゲストハウスや高級ホテルで閑雅な田舎暮らしを楽しむ姿だ。
  そういう金持ちの行動スタイルを当て込んで、普段は持て余している大きな屋敷をゲストハウスに改装して一儲けしようとする人びともいた。戦時下で経済は停滞しているから、そうでもしないと生活資金が得られず、屋敷・邸宅のメインテナンスもままならないという背景事情もあっただろう。
  とはいえ、ゲストハウスの近隣住民たちは、そういう鼻持ちならない金持ちを嫌悪する。そして、彼らに取り入って高額の滞在費を稼ぐ地元民にも反感を抱く。そういう様子もまた巧妙に描かれている。
  さすがにあのカール・マルクスが『資本』を研究執筆した国だけあって、階級格差や階級対立を描き出す映像手法が確立されている! と感心した。

◆原題 The Funk Hole◆
  原題「ファンクホール」の一般的な意味は「塹壕」あるいは「退避壕」だ。怯えて逃げ込む穴というわけだ。だが、ファンクには「臆病な」「臆病者」という意味があるので、「臆病者の隠れ家」という辛辣な含意もある。
  今回の物語では、空爆を受けたロンドン市民が逃げ込む地下退避壕が舞台のひとつになっているうえに、ロンドン在住の金持ちたちが大金を払って避難する田舎のゲストハウスも登場する。もちろんロンドンでの仕事をしなくても食っていけるほど資産がある有閑階級だけが利用できる宿泊施設だ。

  このようなゲストハウスあるいはホテルに長期間滞在できる有閑階級は野歩きやテニス、ボート漕ぎなど「優雅な田舎暮らし」を楽しんだようだ。しかも、そういう生活スタイルを田舎町でこれ見よがしに臆することなく見せつけていたようだ。そうすることで、彼らは自らの資産や地位を誇示していたのだろう。
  だが一般民衆は、金に物を言わせてロンドンから逃げ出した有閑階級を「卑怯者」だと見なし――羨望やっかみ半分もあって――侮蔑していた。

ロンドン空爆

  さて、1940年9月から10月にかけて、ロンドンは連日、波状的にドイツ空軍の激しい空爆を受けた。
  この時期にドイツ空軍は、ブリテン本土への爆撃目標を空軍基地などの軍事施設から大都市爆撃に移していたが、その主要攻撃目標が大都市ロンドンだった。そして、爆撃目標をウェストミンスターの政治・行政の中枢部からさらに住宅地全般に拡大していた。
  ドイツ空軍は夜襲ごとに500トンの爆弾をロンドンに落としていた。その結果、すでにそのときまでに25万人が爆撃の被害にあって住居を失ったという。

  10月のある真夜中、ロンドンの住宅地はドイツ空軍による激しい空爆を受けた。
  ロンドン市民たちは、空襲警報とともに地区ごとに地下鉄設備やそのほかの地下壕に退避した。だが、上空や地上で炸裂する焼夷弾のすさまじい爆発音と振動は、地下壕まで達して、避難した住民たちを震え上がらせていた。
  そのとき、避難民たちの不安をあおるように空爆を呪う独り言を大声で語る男がいた。
  「私たちはドイツ軍によって滅ぼされてしまうだろう。政府は戦争を始めるべきではなかった……ドイツ軍は毎晩500トンももの爆弾をこの街に降らせている……」と空爆の悲惨な現実を語っていた。
  その男は臆病というよりも、どこか心を病んでいるようだった。彼の心の病を知る近所の人びとは、男に独り言をやめるように注意した。
  だが、その声高の独言を市民の戦意阻喪に導く扇動ではないかと苦々しく聞いていた者がいたようで、当局にその男の言動を告発したらしい。

  数日後、スコットランドヤードのローズ警視監はジェイムズ・コリアー警部からクリストファー・フォイル警視に対する告発について報告を受けていた。フォイルが地下退避壕で政府の戦争政策を非難する言辞を弄したというのだ。
  政府による戦時法令で、政府の戦争政策を批判したり、戦時体制への非協力や反対を民衆の面前で教唆したりすることを厳罰をもって禁止していた。フォイルはその法令に違反したというのだ。
  ローズ警視監はコリアー警部に、ヘイスティングズ署に赴いてフォイルの身辺を捜査するように命じた。

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