コルレオーネ家のアメリカでの歴史は、母国シチリアの貧しい農民の子ヴィトが、一帯の農村を領主のように暴虐に支配している地主ギャング(マフィア)の迫害を逃れて渡航し、ニュウヨーク港にたどりつくところから始まります。
20世紀になっても南部イタリアでは、武装した私兵団(militia)を意のままに動かす地主領主(地方ボス)たちがあちこちに分立割拠していました。彼らは、国家や地方政府の公的権力をものともせず、というよりも中央政府や地方権力、政財界と公然・非公然に結びついて、農村や都市を支配していました。
そこには、ごく少数者への富と権力の集中、そしてその対極に圧倒的多数の住民の貧困と抑圧状態がありました。
こうして、イタリアでは20世紀末まで国内に深刻な「南北問題」を抱えていました。
マフィア組織は、このような貧富の格差や地方の分裂から生まれ、それを温床とし、かつ食い物にしながら成長し、この格差と分裂を再生産するはたらきをしてきました。
マフィア組織は、シチリアの地主ボスたちの列のなかに加わったのです。
ナ―ポリなどでもカモッラという犯罪組織が、似たような事情で発生しました。
パートT脚本原作 | パートT脚本原作 | 監督・制作陣取材 |
政治家や官僚、裁判官、官憲、さらに教皇庁を含む宗教家さえも自らの利権ネットワークのなかに深く絡めとり、さもなくば脅迫して沈黙させたり、テロの標的にしたりするという手法は、イタリアではつい最近まで幅を利かせていました。
中央政界財界、聖界の有力者たちが権力の増大や保身のために、こうした「闇の権力(sotto governo)」と結託する構造がずっと続いてきたのです。
シチリアでのヴィトとその家族をめぐる悲劇的事件を描いたシークェンスは、このような南部イタリア社会の状況を端的に物語っています。
シチリアやナーポリをはじめとするイタリア南部では、19世紀から1960年代まで、絶望的な貧困や迫害を逃れようとして南北アメリカ大陸に移住する人びとが後を絶ちませんでした。ヴィトはそんな逃避者=移住者の1人でした。
大西洋を渡ってアメリカ大陸に向かう人びとがめざすのは、主として、南米ではアルジェンティン(アルヘンティーナ)のブエノスアイレス、北米では合州国のニュウヨークでした。