ヴィト・コルレオーネがニューヨークの裏社会で力を拡大し始めてからおよそ20年後、マフィアの世界でも権力や組織の大がかりな構造転換が始まっていました。
おりしも、妹コニーの結婚式に参列するため、ヴィトの三男坊マイケルが帰ってきました。家を出てからおよそ5年後のことです。
彼は、その当時、世界最高のテクノクラート組織たるアメリカ軍で高度な訓練を受けた大学卒の士官です。
そのとき、最先端の近代的組織でキャリアを積んだマイケルは、旧弊な因習に満ち、暴力が横行する父親・兄たちとそのファミリー・シンディケイトに強い嫌悪感を抱き、数学の教師になることを夢見ていたようです。
彼の恋人はWASP(アングロサクスン系白人でプロテスタント)の美女で、マイケルの一族、つまりイタリア系のカトリック家系とは対極にある育ちです。彼は、自身の家族・境遇とはまったく反対側にある世界で成功を夢見ていたのです。
マイケルは、世界最高の経済的繁栄を謳歌するアメリカで、近代性と合理性を身につけ、上昇志向と社会的流動性を一身に体現した、現代アメリカの青年で、「アメリカ的な夢」を追い求める若者でした。
しかし、そのとき、マフィアの生存環境全体が変動し、以前よりもはるかに激しく大規模な内部抗争が始まろうとしていました。
この闘争は、ニューヨーク全域はいうまでもなく、アメリカ全域、カリブ海やイタリアにも波及し、そしてニューヨーク・ダウンタウンの近隣社会を巻き込みました。
街の裏通りから世界全体まで、それぞれのレヴェルでマフィアの事業形態と犯罪組織としての権力構造の転換が始まります。
昔かたぎの一徹者、ヴィト・ドン・コルレオーネは、殺戮と麻薬販売には嫌悪を示し、あらゆる犯罪の組織化に手を染めようとする若手ギャングたちに自己抑制を求めます。
しかし、かえって彼らの「目の敵」になってしまい、命を狙われるようになってしまいました。
縄張りの再分割と覇権の争奪をめぐる闘争が展開します。
コルレオーネ・ファミリーを巻き込んだマフィア・ギャング組織のあいだの戦争は、ニューヨーク全域どころか、フロリダや西海岸、中西部など合州国全域、さらにカリブ海、地中海にまで拡大しました。
マフィアが利権に絡むビジネス、たとえば映画・娯楽産業、リゾート産業、運輸業が合衆国の世界覇権の掌握とともに、世界規模に拡大していたからです。
たとえば、ラテンアメリカに合衆国の影響力と政治的・軍事的介入と経済的な浸透が拡大深化するとともに、麻薬密貿易もまた飛躍的に膨張していきます。
経済ビジネスの世界化とともに、マフィアの犯罪ネットワークと利権の絡みあいもまた世界的規模にまで拡張したわけです。
マフィアの戦争のなかで父親を狙撃され、兄を惨殺されたマイケルは、復讐を誓います。そして、一族のなかで最も才覚のある指導者としてまたたくまに頭角を現しました。
ついに、以前には自ら嫌いぬいていたファミリービズネス、そこから遠く離脱することを切に望んでいたマフィアの犯罪組織・ギャング団に深く深く取り込まれていくことになってしまいます。
「血」すなわち「家族の感情」「一族の絆」が、マイケルの教育と経験、知性と理性を圧倒してしまったのです。
ただし、彼は組織とファミリービズネスの近代化、合法的な世界への転換を終生の目標と誓います。つまり、組織が非合法の世界、裏世界から吸い上げる莫大な収益を基盤に、合法的で近代的な企業組織、事業コンツェルンをつくりあげようと奮闘するのです。
組織の近代化・合法化を生涯の戦略として、マイケルは冷徹なマフィアのドンへの道を奔走することになります。
しかし、第3部出描かれるように、その夢は半ば実現したかけたものの、ついに「見果てぬ夢」に終わるのです。 マイケルは、全身を血と汚泥にまみれたまま死を迎えるのです。