これから考察するのは、2番目の物語です。主に映画の第2部で展開するストーリーです。
コルレオーネのマフィア組織とはどういうものか。それを描き出した後で、「ではその組織はどのような歴史や背景をもって生まれ成長してきたのか」を描くのです。
時はふたたび二十数年前に戻ります。
ヴィト・コルレオーネは、ニューヨークのイタリア人街でゴッドファーザーとして権力の階段を登りつめていく道を歩みだしました。そのとき、獲得した富と力を利用して故郷シチリアに帰還し、復讐を果たすのです。
彼は、シチリア出身の富裕な貿易業者として、マイケルを連れてシチリアに帰ります。
ヴィトの家族、アンドリーニ家を虐殺したマフィアの首領、ドン・チッチォは老いてもなお相変わらずコルレオーネ村で支配者然とした行動と生活を営んでいました。
ヴィトは現地の有力者トマッシーノを引き連れて、チッチォに会いに行きます。この首領が経営する農場と工場で生産するオリーヴオイルを買い付ける許可を受けに訪れた振りをして近づき、隙を見て暗殺することに成功しました。
その後、この復讐劇の準備と手伝いをしたトマッシーノは、ヴィト・コルレオーネの支援を受けて、コルレオーネ村近辺に勢力を確保した首領=ドンになりました。ヴィトのファミリーは、彼を通じて、シチリアでの影響力と拠点を確保したようです。
その二十数年後、ニューヨークで敵対するファミリーのボスと悪徳警察官を同時に射殺したマイケルが、ひそかに出国してシチリアに逃れたとき身を寄せたのが、このトマッシーノ・ファミリーです。
ヴィトの復讐劇のシークェンスでは、1920年代の南部イタリア(シチリア)の社会が描かれています。
イタリアは、13世紀以来現在まで、発達した近代的工業・金融・商業をもつ豊かな北部と貧困な南部との格差がひどいところでした。
南部には地主領主制が根強く残存していて、大地主が武装した従者団を自ら率いて、あるいは不在領主から支配権をゆだねられた従者たちが独自の権力を保有して、小作農民を収奪・抑圧する仕組みが続いていました。
領主や地主の所領支配は「封建的」というよりも、むしろ世界市場で販売するための商品作物、たとえばオリーヴやオレンジ、小麦を生産するもので、すぐれて資本主義的な経営でした。
マフィアの権力は、形を変えて存続する地主領主制(その変種)のように見えます。
マフィアあるいはコーサ・ノストラの発生源に関する説は2つあるようです。
1つめは、不在領主・地主の代理として農園を支配する武装従者団のある部分が、独自の権力を獲得して、領主や地主に取って代わって支配者となり、やがて犯罪組織に変化していったというものです。
2つめは、農村を傍若無人に支配する領主・地主やその武装従者団のひどい抑圧と搾取に対してシチリア住民を守る抵抗運動から生まれた秘密の武装集団が、しだいに所領や農村、都市への支配権を獲得し、やがて犯罪組織に転化していったというものです。抵抗組織がその正反対のもの、つまり農民や都市住民を支配・収奪する権力に転化していったというわけです。
領主・地主の抑圧と搾取から農民を守るための運動がマフィアになったというのは、痛烈な歴史の皮肉だといえます。
映画や小説のマフィアものでは、2つ目の説が用いられる場合が多いようです。
いずれにせよ、19世紀には、領主や地主と並んで、あるいは彼らに取って代わってマフィアが所領と農村を支配するようになったということになります。