幻影師 アイゼンハイム 目次
幻影は権力? それとも権力は幻影?
見どころ&あらすじ
世紀末ヴィーン
アイゼンハイムの来歴
警視とレーオポルト大公
大公の挑戦
ゾーフィーの願い
ゾーフィーの死
ヴァルター警視の疑念
大公破滅へのカラクリ
イリュージョン・・・権力
イリュージョン・・・歴史
日本近代史イリュージョン
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アイゼンハイムの来歴

  アイゼンハイムの本名は、エドゥアールト・アブラーモヴィッチで、市内の家具職人の息子だった。幼い頃から手先が器用だった。
  12歳ぐらいの頃、彼は近郊の草原で1人の年老いた魔術師と出会ったという。道の傍らの木陰にいる魔術師は、少年に世にも不思議な奇術と幻影を見せた直後に消え去ったという。
  あるいは、少年にとって老魔術師との出会いそのものが、そもそも幻影だったのかもしれない。
  それからというもの、エドゥアールトは老魔術師のイリュージョンに魅せられ、奇術の訓練に没頭した。手先や身体の俊敏な動きによる奇術(手品)のほかに、エドゥアールトはこの世に存在しそうもない幻影を人びとに見せることがあったらしい。
  幻影を見た者たちのなかには、エドゥアールトは生まれつきの天才的な幻影師で、老魔術師と出会う前から才能を垣間見せていたと語る者もいた。

  それから数年後、エドゥアールトは市街の石畳路上でゾーフィー・フォン・テッシェンと出会った。名前のとおり、ゾーフィーはテッシェン公の令嬢で、偏見のない知性を持っていた。そのとき彼女は友人の貴族の少年たちと乗馬をしていた。
  一方、エドゥアールトはそのとき奇術の練習に夢中になりながら路上を歩いていた。彼は騎乗の貴族の少年グループと出会い、脅かされ邪魔っけにされた。貴族層は特権階身分で一般庶民を上から見下していた。
  ところが、ゾーフィーはハンサムで知的なうえに、どこか常人と異なる風貌をした少年エドゥアールトに魅了されたようだ。少年のあとを追い、自ら話しかけて親しくなった。


  だが、当時オーストリアはヨーロッパのなかでもことさらに身分秩序が厳格な王国だった。ロンドンやパリ、ミュンヒェン、プラーハなどに比べて貴族と一般市民との格差はきわめて大きく、富裕な市民層でも、貴族層とは画然と隔てられていた。
  ゾーフィーは家族や周囲の人びとから、身分卑しい家具職人の息子と会うことを厳しく禁じられた。
  それでも、しばらくは彼女はこっそり屋敷を抜け出しては、エドゥアールトと密かに会っていた。2人にとって初恋だったのかもしれない。
  しかしやがて、公爵家の家人はゾーフィーをエドゥアールトから引き離すために、官憲を差し向けて「今度ゾーフィーと会ったら投獄する」と少年を脅しつけた。あるいは、さらにゾーフィーは貴族令嬢専門の名門寄宿女学校に預けられたのかもしれない。
  いずれにせよ、ゾーフィーとエドゥアールトの仲は身分秩序によって引き裂かれた。

  失意の少年は家を出て放浪――奇術の遍歴修行――の旅に出た。彼の故郷では、ロシアに向かい、その後、世界中を回っているという噂が立った。
  エドゥアールトが「幻影師アイゼンハイム」に名を変えてふたたびヴィーンの街に現れたのは、十数年後だった。
  アイゼンハイムの幻影術はたちまち民衆を魅了した。何しろその頃には「公教育」や「科学教育」などは貴族とか富裕資本家の特権であって、一般民衆は古くからの迷信やらオカルトやらにすっかり呪縛されて日々を生きていたのだ。不思議な現象=仮象を起こす者に対しては、恐れて忌避するか心酔するかだった。マス社会=都市部の民衆は新奇なものや珍奇なものに飛びついていった。

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