原作者のF.フォーサイスによれば、フランスで大統領の警護や捜査に当たった人物たちに取材して得た情報を組み立てて、この物語を書き上げたそうです。
これに近い脅威がドゥゴール大統領に迫り、当局はそれに対応したらしいことは事実のようです。
フランスといえば文化の香り高いお国柄。半世紀ほど過去に、大統領暗殺の謀略が何度も企てられたとは、驚きです。
もっとも、アメリカでは同じ頃にケネディ大統領がダラスで暗殺されました。だから、先進工業国でも、この時代にはこんな野蛮な手口で国家の指導者の首をすげ替えるのは、ありうることだったのでしょう。
では、「ジャッカルの日」がどこまでが事実に即しているのか。これは永遠のなぞのままでしょう。
というよりも、ジャーナリストのフォーサイスは、現実の世界の仕組み、政治の構造をフィクションの物語をつうじて分析してみせたのでしょう。
彼はイングランドの新聞記者特派員として、事件当時、もっぱらフランスの大統領府の取材報道に携わっていました。
そこで、ドゴールの性格や行動スタイルをつぶさに見聞し、その政敵の心性や行動スタイルをも知悉していたはずです。
当然、フランスの政治状況、とりわけアルジェリアをめぐる世論や政派の深刻な対立・分裂をも。
この作品の映像を見ていると、この事件が、社会の情報システムの構造が古かった時代に起きたことを如実に感じます。
いまだ手作業・アナログでパスポート発行をおこない、また出入国手続き、その情報管理をしていた時代に起きたもので、隠密行動や偽装、そして捜査もまた手作業・アナログで進めるしかなかったんだ、とあらためて思います。
携帯電話やインターネットがない時代のことです。
そして、その後ヨーロッパ統合が進み、今では、ポーランドからポルトガルまでパスポートのヴィザ(検認)なしに旅行や移動ができるようになっていることを。
したがって、ホテルではいちいちパスポートを補完することは、今ではまれであること。ただし、宿泊客の情報はコンピュータネットで瞬時に集約できること。
・・・など、今では社会状況、情報の伝達・管理手法がまったく変化してしまいました。時代の変化が明白です。
アナログでしか情報収集できなかった時代にしては、フランスは集権的な行政体系をもっていたので、ヨーロッパでは最も効率的な捜査だったのかもしれません。
それから、狙撃の日すなわち解放記念式典には、フランス軍のほとんど部門の代表というか精鋭がパレイドに参加します。
なかには山岳旅団や機甲師団も。
なんとパリの大通りには、1960年代に戦車のプラモデルにはまった人にはなつかしい、あのフランス陸軍の制式戦車AMX30の本物が画面に登場するのです。
今の複合装甲を用いたタイプの戦車とは違って、低いスマートなシルエットです。
そして、フランスの戦車の特有の伝統である、車体や砲塔のコンパクトさに比べて飛びぬけて大きな主砲が目立ちます。
その伝統は、現在の陸軍正式戦車、ルクレールにも踏襲されています。
そのほか、さらに巨大な主砲を誇示する自走砲(デストロイア:駆逐砲戦車)も軍のパレイド場面に出てきます。
戦車ファンには必見のシーンです。