日本の刑事ドラマ 目次
日本の刑事・警察ドラマ
『踊る大捜査線』の眼差し
    官僚組織としての警察
    犯罪捜査の政治力学
    警察の官僚装置と組織運営
    捜査本部の組織と運営
    階級序列と捜査活動
『ハンチョウ』が描くもの
    安積班の組織運営スタイル
    班のメンバー
    そのほかの面々
おススメのサイト
アメリカの警察官の物語
刑事ジョン・ブック
アメリカの犯罪捜査
ミシシッピ・バーニング
おススメのサイト その2
信州の高原の町の旅
小諸街あるき
北国街道小諸宿の歴史と地理を探るため、美しい懐旧の街並みを訪ねる。寺社めぐり案内も。

◆◆犯罪捜査の政治力学パウワーポリティクス◆◆

  さてそれでは、ドラマの人物配置と描かれる警察組織のヒエラルヒーあるいは人脈などを観ながら、湾岸署を舞台に展開される犯罪捜査のありようを考察しよう。
  物語の主人公は、青島俊作。大学卒業後、数年間、コンピュータ・システム会社の企画営業部門に勤務したが、警視庁警察官に転職したという経歴だ。民間から都の公務員――しかも警察官――になったわけで、この経歴から見ても、生粋の警察官とは異なる発想・行動スタイルを身につけている。
  こういう人物を主人公に配したのは、一般民間企業で培った仕事意識や職業感覚から警察という特殊な公務員組織を突き放して客観的に描き出すためだろう。
  青島は「役人臭さ」のない青年警察官である。
  刑事警察捜査員としての階級は巡査部長。警察組織のなかでは、下から数えた方が圧倒的に速い「下っ端」「現場の捜査官」である。

  彼は偶然、警察の組織と運営スタイルの改革を求める警視、室井慎次と出会う。室井はキャリアだが、警視庁も含む警察組織の改革――犯罪捜査で現場の捜査員を上層部が支援する仕組みや運営体制づくり、要するに風通しのよい組織にする――をめざす変わり種だ。
  室井は、犯罪捜査においては現場(所轄)の自発的判断・裁量を許容し、捜査本部の上級幹部とのフラットでフランクな情報のやり取りをめざすという発想である。したがって、警察官僚のなかでは異端児で、実績抜群で優秀だが、やや「浮いている」。
  室井は、組織運営で上下の序列――本庁と所轄署、捜査本部と現場の刑事たち――を見せつけるスタイルよりも、現場の捜査官の自発性を尊重して犯罪捜査の機能を高めるスタイルの方が警察の威信を高めると信じているのだ。
  青島は、そういう柔軟で現場尊重の発想・行動スタイルをもつ室井が警察組織のなかで昇進して組織のトップにまで登りつめ、そして彼の手(人脈)で警察組織の改革を断行してほしいと切望している。それゆえ、折に触れ、室井を応援する。

  ところで、犯罪捜査と犯罪の抑止・抑圧は、強制力を保有する国家装置としての刑事警察および検察――これに裁判所も加わる――の専権事項である。犯罪の状況を解明し刑事罰を加える過程は、国家の司法権の行使であって、犯罪による市民社会の秩序の撹乱や破壊を修復し、抑止するのが目的となる。
  犯罪には刑事犯(刑法犯)、経済事犯(商法や独占禁止法、金融関係法、労働法などの違反)、行政事犯などが含まれる。公安警察の性格と位置づけについては、ここでは触れない。
  民事訴訟が市民のあいだの権利や義務をめぐる闘争・論争であるのに対して、犯罪捜査と裁判を含む刑事訴訟は、市民社会の公共秩序=平穏を守るために、国家装置(地方機関も含む)が犯罪と犯罪者に対抗する過程となる。
  したがって、犯罪捜査は、国家権力の発動=行使の1つの形態であって、国家装置としての警察組織とその権力機構――これに検察組織の捜査と法務が加わる――をつうじて方向づけられる。そうなると、犯罪捜査と容疑者捕縛、訴訟による量刑、刑罰としての収監・懲役などの一連の過程が、威圧や牽制の機能をはたして、犯罪の抑止をもたらすという期待が込められている。


■警察組織の階級制■
  国家権力としての物理的・社会的強制力の行使を統制し組織化するという点において、警察は軍組織とよく似た組織構造と階級制を備えている。銃器や物理的抑圧・地威圧装置を保持し、行使する権限を持つ。その意味では、民主主義レジームにおける市民的警察といえども、いわば準軍事組織の組織形態を備えていなければならない。
  それで、その階級組織だが、日本の警察は次のようになっている。
  人事組織上の階級パースネル・クラスの制度は上から、
  警視監
  警視長
  警視正
  警視
  警部
  警部補
  巡査部長
  (巡査長)
  巡査
となる。
  最上級の警視監のなかから警察庁長官と警察庁のトップ層、そして警視庁のトップである警視総監や大阪府などの巨大都市の警察本部長が任命される。法律の文面はともかく、実態としては、行政統括組織としての警察庁は、国民国家の行政装置としての日本各県の警察組織を統合・監督する機能をもつ。
  この統括・監督は、警視以上のキャリアエリート官僚群を人事上、警察庁の指揮下に置くという方式でおこなわれるが、その方式の限界については、あとで見る。
  民主主義と地方自治の建前、そして戦前の国家警察の暴走を再発させないという建前から、警察の実働機関は都道府県を単位として組織されている。
  首都である東京都の警察組織を束ねるのは警視総監だ。警視庁は、府道県単位の警察本部とは少し性格を異にし、警察庁によって管理される首都を管区とする警察支庁だ。支庁は警察庁組織では局の上に位置づけられている。

  同じクラスでも、属する組織や権限などによる職位――部長・課長・係長など――によって、さらに細かく階層化されているので、階級は100以上にもなるだろう。とりわけ警視以上については、たとえば刑事部長や刑事課長を補佐する参謀格、あるいは複数の所轄管区を統括する方面の統括者として参事官、理事官、管理官などの職階が置かれている。要するに、ものすごい上下関係が仕組まれた超階級社会である。

次のページへ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界