TVドラマ『新参者』は9回シリーズで、日本橋界隈で起きた1つの殺人事件の捜査(謎解き)を大きな軸としながら、この近隣社会で家族や恋人、友人関係などに絡む《人情の機微》をめぐって「心温まる小さな謎解き」を各回に配している作品群だ。
ドラマの舞台が、日本の「本来の下町」、日本橋小伝馬町や人形町となっていることが、実に面白い。大都市東京の中心にありながら、江戸時代以来の日本の都市空間のなかでの人びとの結びつきや心の交流が今でも残っていそうな雰囲気を感じる場所だ。
大都会の中心部で、昔ながらのそこそこの密度の近所づきあいや近隣社会が存在している、そういうコミュニティを舞台として設定してあるところが妙味だ。
◆「人情」とは何か◆
さて、ここでまず語るべきは――ドラマを考察するうえでのキイワードとした――「人情」とは何か、ということになるだろう。
ここでは、私の勝手な解釈として、「人の立場や苦衷を思いやる心遣い」、ひとびとのあいだの「愛情」「友情」「信頼」などを意味するものとしておく。
要するに「社会心理」の1形態だ。家族や友人、恋人、同僚などの社会関係のなかで形成され、再生産、変形されていく心理、心情であって、強い「いつくしみ」や「共感」をともなう心性だということにしておこう。
加賀恭一郎は、人間の態度、表情、心理などに対する卓越した洞察力を持っている。事件関係者として面談や聴取の対象となった人びとの心理を見抜く能力にすぐれているのだ。
心理分析能力は、すぐれた刑事・犯罪捜査官に求められる資質といえるが、加賀恭一郎の場合には刑事としては度が過ぎている、というか、容疑者を追いかけ捕えるために犯罪の動機とは背後にはたらいている心理を読むという次元を遥かに超えて追究するのだ。
そのことから、警察幹部たちからは、彼の調査行動は犯罪捜査の路線から「はみ出している」と見られている。よけいな事柄に首を突っ込んで、脇道の問題にばかりかまけていると評価されてしまうのだ。
ところが、結局のところ、加賀は事件に付随する事情や状況をきわめて丹念に追究しているので、事件の深い真相に行く着くことになる。つまりは、事件解決に活躍するわけだ。
だが警察組織の幹部から見ると、それがまた扱いにくいやっかいな刑事と評価される原因になってしまうようだ。
そこで、彼に会った人びとが、加賀の観察力・洞察力や捜査能力の高さ、頭脳の明敏な動きなどに驚き、「それだけの力量なのに、なにゆえに所轄の警部補にとどまっているのだろうか?」と疑問を抱くことになる。
一方、仲間の刑事たちには、「つまるところ、キャリアの階段を昇るうえで障害となる失敗とか上司の逆鱗に触れることをしたのだろう」という評判を呼ぶことになる。
要するに「組織のはみ出し者」「異端人物」ということになるわけだ。