刑事ドラマ『新参者』と
   『刑事定年』 目次
《人情の機微》
見どころ
『新参者』
日本橋という街と人情
日本橋界隈の《新参者》
@煎餅屋の娘
A料亭の小僧
B瀬戸物屋の嫁
C時計屋の犬
D洋菓子屋の店員
E翻訳家の友
F清掃会社の社長と息子
G民芸品店の客
社会と人間模様を描くドラマ
物語のアルゴリズム
刑事警察の役割
犯罪捜査の機能
おススメのサイト
アメリカの警察官の物語
刑事ジョン・ブック
アメリカの犯罪捜査
ミシシッピ・バーニング
おススメのサイト その2
信州の高原の町の旅
小諸街あるき
北国街道小諸宿の歴史と地理を探るため、美しい懐旧の街並みを訪ねる。寺社めぐり案内も。

E翻訳家の友

  被害者、峯子の第一発見者は、翻訳家の多美子だった。多美子は峯子とは大学の同窓生で親友だった。
  峯子は離婚後に翻訳家としての仕事を始めて、実績を積むために多美子の援助を受けていた。事件当日も、多美子は峯子の部屋を訪れて、殺害されていた峯子を発見したのだ。
  だが、多美子は峯子と会う約束の時間を直前に1時間あとに変えてもらっていた。そのため、多美子ははじめの予定通りの時間に会っていれば峯子は殺されることはなかったのに、と深く後悔していた。
  多美子が峯子と会う時間を遅らせたのは、婚約者のコウジ・タチバナから突然電話を受け、銀座で会うことになったからだ。コウジが多美子に高価な婚約指輪を贈るためだった。

  ところでその日、コウジは携帯電話を紛失していたので、多美子との連絡を公衆電話からおこなっていた。
  事件の捜査でも、公衆電話での連絡が問題として浮上していた。
  殺される直前、峯子は公衆電話による連絡を受けて合う時刻が遅れることになったので、空いた時間に自室で誰かと会うことにした。そして、その誰かが犯人ではないか、という推論に捜査本部が達したからだ。

  さて、多美子に対する追加の事情聴取で「峯子の知り合いのなかで最近携帯電話を紛失した者がいないか」という問いで「いない」と嘘を言った。多美子の態度から加賀は嘘の匂いを嗅ぎつけた。
  婚約者のコウジは峯子とも親しいので、彼をかばったのだろう。だが、彼女には疑念が芽生えていた。
  最後に会ったとき、多美子は峯子と気まずい別れをした。
  「あなたは私を応援してくれると言ったのに、結婚してロンドンに行ってしまう。私なんてどうでもいいのだわ」と言われたのだ。


  コウジ・タチバナはロンドン生まれロンドン育ちの日系の映像クリエイターだった。コウジは多美子に結婚してロンドンにいっしょに行こうと促していた。だが、峯子が殺害されたことに最悪感を感じていたので、結婚と移住を躊躇していた。
  コウジは、峯子が翻訳家としての自立のために多美子に深く依存していることで、多美子がコウジと結婚してロンドンに移住することを躊躇しているのだと考えていた。だから、峯子は自分の幸福にとって「邪魔者」だと感じていた。
  あの日、コウジは多美子を突然銀座に呼び出し、峯子と会う時間を変える原因をつくった。銀座は日本橋のすぐ隣で、犯行の時間にコウジが銀座から小伝馬町にいくことは容易だ。捜査陣はこう考えたのだ。
  そして、多美子も似たような疑念を持ったのかもしれない。

  さて、峯子は多美子と別れたときに、そのときの気分に突き動かされて非難めいた言い方をしたが、多美子とコウジとの結婚を心から祝福するつもりだった。そこで、高級な漆塗りの夫婦箸を贈ろうとしていた。
  そこで、陶器・食器店に特注品を頼んでいた。
  コウジ・タチバナの映像想像手法では、綿密な準備をした「サプライズ」による表現――印象づけ――が大きな役割を演じていた。それが、峰子の行動に影響を与えていたらしい。
  あの日、多美子に突然電話して銀座で会ったのも、彼女を驚かせて、結婚への動機づけをしようという計算からだった。しかも、その日は、何年か前に多美子とコウジとが夜桜観賞パーティで劇的な出会いをして付き合いと恋愛が始まった日だった。
  とはいえ、多美子はその日を忘れていた。
  加賀は多美子とコウジへの事情聴取を続けながら、そういう事情を探りだしていった。

前のページへ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界