刑事ドラマ『新参者』と
   『刑事定年』 目次
《人情の機微》
見どころ
『新参者』
日本橋という街と人情
日本橋界隈の《新参者》
@煎餅屋の娘
A料亭の小僧
B瀬戸物屋の嫁
C時計屋の犬
D洋菓子屋の店員
E翻訳家の友
F清掃会社の社長と息子
G民芸品店の客
社会と人間模様を描くドラマ
物語のアルゴリズム
刑事警察の役割
犯罪捜査の機能
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信州の高原の町の旅
小諸街あるき
北国街道小諸宿の歴史と地理を探るため、美しい懐旧の街並みを訪ねる。寺社めぐり案内も。

G民芸品店の客

  ところがまもなく、峯子殺害の時間――4月13日午後6時半前後――に清瀬直弘は会社にいたというアリバイが怪しくなってきた。というのは、会社の顧問税理士、岸田の息子である克哉がその日の午後6時半頃に清瀬の会社の社長室直通番号に電話したが、誰も出なかったという証言をしたからだ。
  加賀たちが直弘と祐理を問い詰めると、直弘はそのとき社長室ではなく倉庫にいたと返答した。
  加賀たちはさらに岸田克哉にも立ち入った事情聴取を進めることになった。
  すると、克哉は何やら直弘や峯子との関係について隠し事をしている様子だ。そして、峯子とは親しかったが、この半年間会ったことはないという。
  そして、犯行時間にどこにいたかという質問に対して、克哉は大事な顧客を六本木で接待していたと回答した。だが、経理部の克哉が営業部のように接待するのは変だと加賀は考えた。
  克哉は大手広告代理店の経理部に勤務しているエリートサラリーマンだ。しかし、住居のマンションや乗用車、家具や服装、食事などを観察すると、とても「普通のエリートサラリーマン」の収入ではまかなえない贅沢な暮らしぶりだ。なにしろ、息子の前でいい恰好をするために、30万円もする玩具をプレゼントしたくらいだ。

  これについて克哉は、サイドビズネスのインターネットによる投資で大成功を収めて1億も稼ぐこともあると自慢げに説明した。事件当夜の「接待」もじつは投資がらみの「つきあい」だったと打ち明けた。
  だが、その供述が怪しいと見た加賀たちは、克哉が犯行時間にどこにいたかを調べることにした。
  すると、息子にプレゼントした高価な玩具を取り置きしてもらうために、犯行時間に玩具店にいたというアリバイ証言が出た――店員による証言。ところが、これについて克哉は頑なに否定し続けた。

  さらに捜査が進むうち、事件当日の午後1時過ぎに克哉は峯子と会っていたことが判明し、しかも、事件の2日後に克哉は清瀬直弘の会社に出向き清瀬から金銭を受け取っていたことも判明した。こうして、捜査陣のなかで清瀬直弘と岸田克哉との共犯説が浮上。直弘が克哉に峯子殺しを依頼して、犯行後に報酬を手渡したというのだ。
  しかし結局、克哉はインターネット投資で巨額の損失をこうむり、息子へのプレゼントを買う金がなくて、清瀬直弘から金を借りたことが判明した。直弘は克哉から頼まれて、その経緯を秘匿していたのだ。

  ところで、この間に直弘が会社内の倉庫にいたというアリバイを覆す証言が出たこととから、清瀬直弘は重要参考人――というよりも殺人事件の容疑者――として警察に拘束されることになった。最近清瀬の会社を解雇(リストラ)された男が、倉庫に私物を取りに行ったが社長(直弘)はいなかったと証言したのだ。
  直弘は、それに対して、倉庫の扉のカギが開いていたので、不審を感じて調べに入ったこと、しかも物音がしたので奥を調べようとすると洗浄剤の容器を倒して洗浄剤をこぼしてしまったので、その拭き取り作業をしたと反論した。
  ところが、やがてその男は倉庫に洗浄剤を盗み入って、直弘に見つかりそうになって隠れたという事実が判明して、直弘のアリバイは証明された。


  一方、加賀は清瀬克哉への事情聴取を続けるうち、克哉の息子が祖父、岸田税理士からもらった独楽がどうやっても回らないという事実に不審を感じた。
  加賀が人形町の民芸品店で同じような独楽を買って試すと、簡単に回すことができた。独楽の紐は組紐だった。ところが、克哉の息子の独楽は、どうやっても組紐では回すことができなかった。
  で、克哉の息子に尋ねると、その独楽は、事件当日の夜、岸田税理士がカバンに入れているのを見つけたという。だが、紐がないので、もらうことはできず、その2日後に紐付きの独楽をもらったという。
  加賀が調べを進めると、近所の別の民芸品店で犯行当日の夕方、独楽が万引きされてなくなったことがわかった。その独楽の紐は「撚り紐」だった。峯子の殺害に使われた「凶器」と同じものだった。

  こうして、加賀は真相を割り出した。岸田税理士が峯子を殺したのだ。
  じつは岸田は、清瀬直弘の会社の節税対策のために――投資額が大きい割には利益が出ない経営状況であれば、連結会計にすればグループ全体の利益率は小さくなり課税額は単独会計の場合よりも低くなるから――設立経営している子会社の資金を5000万円以上横領していたのだ。その子会社の経理は岸田に任されていた。横領した金は、息子の克哉に与えていた。
  というのは、こういうしだいだった。
  インターネット投資で1億円以上の損失をこうむった克哉は、勤務する代理店の経理資金を横領して穴をあけていた。その穴を埋めるために、自分の税理士事務所の金だけでは足りず、清瀬の子会社の金を横領したのだ。

  ところが、離婚調停における財産分与の条件に不服を申し立てようとした峯子が、その子会社の財政状態を知ろうとして、岸田に経理情報を見せろと迫った。見せないなら、直接直弘にかけ合うと言い張った。そうなれば、岸田の横領は発覚して、岸田は破滅する。
  こうして岸田は殺意を抱いた。そして、民芸品店の独楽を盗み、その紐で峯子を殺した。公衆電話から峯子に電話を入れて面会を求め、犯行におよんだのだ。
  岸田の息子の克哉は、息子にいい恰好をするために収入に不相応な暮らしを続けたうえに投資の失敗で財政が破綻し、会社の金を横領する羽目に陥った。一方、克哉の父親である岸田もまた、エリートサラリーマンの息子を過保護にして金銭感覚を狂わせてしまい、その結果横領に奔らせた。しかも、その息子に対して自分がいい恰好をするために顧問会社の金を横領したというわけだ。
  何やらくどい状況設定のような気もするが。

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