刑事ドラマ『新参者』と
   『刑事定年』 目次
《人情の機微》
見どころ
『新参者』
日本橋という街と人情
日本橋界隈の《新参者》
@煎餅屋の娘
A料亭の小僧
B瀬戸物屋の嫁
C時計屋の犬
D洋菓子屋の店員
E翻訳家の友
F清掃会社の社長と息子
G民芸品店の客
社会と人間模様を描くドラマ
物語のアルゴリズム
刑事警察の役割
犯罪捜査の機能
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ミシシッピ・バーニング
おススメのサイト その2
信州の高原の町の旅
小諸街あるき
北国街道小諸宿の歴史と地理を探るため、美しい懐旧の街並みを訪ねる。寺社めぐり案内も。

F清掃会社の社長と息子

  このエピソードは、第7話と8話の連作。
  多美子は、峯子が殺害される直前の時期に、清瀬直弘との離婚調停における財産分与について不満を抱いていたことを加賀たちに告げた。離婚を言い出したのは峯子だったが、離婚の原因が直弘側にもあったと思っていたわけだ。
  ということは、離婚をめぐる利害の対立が峯子と直弘とのあいだに存在したことになる。利害対立は殺人の有力な動機となる。疑いの視線が直弘に向けられていくことになった。

  おりしも、上杉刑事は、直弘が半年ほど前に祐理という容姿端麗の美女を秘書としたことから、その美女と直弘が浮気したことが離婚の原因となり、やがては峯子の殺人へとつながった可能性を追っていた。直弘が経営する会社の従業員や顧問税理士の岸田も、直弘と祐理とが愛人関係だと勘ぐっていた。
  というのも、直弘は祐理と銀座の高級クラブで出会った。祐理はホステスだった。2人は親密になり、やがて直弘は祐理を突然秘書の地位を与えた。そして、第三者がいない場での2人だけの会話の様子も、相当に親密で、祐理は直弘(社長)に対して敬語を使わない。

  だが、上杉は直弘と弘毅との父子関係に一番の関心があるようだった。そして、親元を飛び出して舞台俳優の道をめざしている弘毅のところに、事情聴取を口実にして何度も通いつめていた。上杉としては、断絶してしまった父子の関係と弘毅のゆくえが気になって仕方がないという様子だった。
  上杉は舞台演劇専門の雑誌を買って読んでいた。たぶん、弘毅が属する世界を知り、弘毅の夢の内容を知ろうとしているかのようだった。
  そんな上杉がある日、下を幹線道路が走る高架歩道の手すりに花束を献じ缶コーヒーを手向けていた。上杉の行動を観察していた加賀が、その場にやってきて手向けの理由を尋ねた。上杉は「息子の命日」だと答えた。

  その3日後にも上杉は、同じ場所に来た。だが、花を持参しなかったことを悔やむことになった。おりしもそこに花束を持った加賀がやって来て、上杉の死んだ息子のことを質問した。
  上杉は、自分が息子を死に追いやったと答えた。
  息子は、親への反発からか暴走グループに入っていた。それで、無免許でバイクを運転しているところを検問で捕まった。担当巡査は、父親の上杉に電話した。上杉は警視庁刑事の立場を利用して「もみ消し」を頼み込んだ。そのことに反発した息子は、家を飛び出し、バイクで暴走して事故を起こして死亡したらしい。
  「あのとき、厳しい処罰を受けさせていれば」と上杉は今でも悔やんでいた。


  こういうわけで、彼は直弘と弘毅との父子関係の断絶と対立が気になって仕方がなかったのだ。
  ところで、この間に、上杉は警視庁に辞職願を出していた。直弘を「泳がせ」て証拠を固めるという捜査本部の方針に反して、直弘に執拗に付きまとい衝突を起こしたからだ。
  一方、弘毅は峯子が父親と離婚しなければ殺されることはなかったと思い込んでいた。そして、離婚の原因の大半は、父親の直弘にあると見ていた。というのも、会社が大きくなるにつれて直弘は会社人間になり、峯子や弘毅を顧みなくなったからだ。
  だが、弘毅が幼い頃には父親は家族を大切にしていたので、弘毅は楽しい思い出を持っていた。父親の会社が成長してその経営規模が大きくなるにつれて、家族はぎくしゃくし壊れていくようになった。
  そして、今、弘毅は事件捜査のなかで浮かび上がった直弘と祐理との関係を疑っていた。
  そういう複雑な思いを抱え金見ながら、弘毅は父親の会社に乗り込み屋上に祐理を呼び出し、直弘との関係を問い詰めた。祐理は「自分の父親を信じなさい。その質問は父親にすればいい。父子でもっと率直に話し合いなさい」と切り返した。祐理には何か意図があるらしい。
  そこに加賀も現れ、直弘と祐理との関係を直弘にぶつけることになった。
  こうして社長室で加賀と弘毅が直弘に対面することになった。加賀の質問に続いて、険悪な親子対話が始まった。
  とはいえ、加賀の質問によって、じつは直弘と祐理とが父娘であることが明らかになっていた。

  大学卒業後、定職に就かずにアルバイト生活をしていた直弘は、キャバレーの雇われマダムをしている若い女性と恋に落ちて同棲した。しかし、直弘が結婚を申し込もうとすると、その女性は姿を消してしまった。
  「未来ある若者」直弘を思いやってのことだった。
  それから二十数年後、直弘は銀座のクラブで祐理と出会い、小指につけている50円玉を加工した指輪に気づいた。直弘が昔、同棲していた女性に結婚申し込みのさいに贈ったものだった。祐理は母親の形見としてその指輪を受け継いだのだ。祐理の生年月日からも、彼女が自分の娘だと知ることになった。
  そこで、父親らしいことをしようと彼女を秘書にした……という経緯だった。

  こうして、祐理と弘毅が異母姉弟という関係にあることが確認された。
  直弘は長い時を経てめぐりあった祐理と父娘の関係を回復しようと努力したのだ、だが、他方で峰子や弘毅との関係は破綻してしまった。家族は、家族たろうとする努力によって、はじめ家族となり、あり続けるということか。
  だが、母親が翻訳家になる夢をふたたび抱き離婚するしかなかった原因がやはり仕事中毒の直弘にある――そう思う弘毅は、父親に「あんたを許せない」と言い捨てて出ていってしまった。

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