それではまず、この作品に描かれている物語を一瞥してみましょう。そのあとで、背景にある状況として、17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパ世界経済(資本主義的世界経済)の権力構造の転換過程を考察するすことにしましょう。
ここでは物語の展開を登場人物の紹介という形で進めます。
というのも、まさに登場人物の人格や生き方、思想や情熱が、物語の展開とそのなかでの彼らが演じる役割を決定しているように見えるからです。
物語は、現地に派遣されたアルタミラーノ枢機卿による報告として、語られます。
南アメリカのラプラータ河の支流、パラーニャ河の上流地帯の森林にグァラーニ族が、狩猟および採集によって暮らしていました。そこにエスパーニャのイエズス会は布教のために修道士を派遣してきました。
けれども、派遣された修道士は、誰もが原住民の敵意を買い襲撃され捕えられ、丸太でつくられた十字架にくくりつけられたまま河に投げ込まれてしまいました。いくつもの十字架がイグアスの滝に落ちていきました。
犠牲になった神父たちを派遣したガブリエル修道士は、こんどは自ら布教に赴こうと決心しました。
ガブリエルは急流をさかのぼり、滝の傍らの崖を登りつめて、グァラーニ族の居住地に近づいていきました。持ち物は、オーボエの音色を発する不思議な縦笛でけでした。
開けた草原に出たガブリエルは、オーボエを奏で始めました。やがて彼が奏でる美しい音色に惹かれてグァラーニ族が現れます。修道士は彼らの居住地に迎えられました。
そして、定住集落の建設が始まったのです。
この場面は、およそ100年間もかかった経過をわずか1、2年のできごととして圧縮して描いています。
定住集落の中心部には、教会、学校、病院、寡婦・孤児院が建設され、村の周囲には共同耕地が開拓されていきました。
村人は聖書を学ぶだけでなく、農耕技術、声楽、楽器製作などを学び、生産物を平等に分配し、余剰生産物を外部のヨーロッパ人植民地に販売するようになりました。
ところが、ヨーロッパ人植民者との出会いは、集落の豊饒さも手伝って、奴隷狩り商人やプランター(インディオを強制労働させる農場の経営者)を呼び寄せてしまいました。
ある日、グァラーニの若者と子どもが、奴隷狩りに連れ去られてしまいました。アスンシオンを本拠にして、アマゾンで原住民を捕獲し、奴隷として植民者に売りつける商売をしている傭兵隊長、ロドリーゴ・メンドーサの仕業だったのです。
ロドリーゴとガブリエル修道士や集落民との出会いは、このような酷いものでした。