非暴力を貫きながら、確固たる信念で、最後までインディオの守護者(=共生者)たろうとした修道士、ガブリエル。
ヨーロッパ人やアメリカ人などのキリスト教徒ならば、あるいはムスリムであっても、この映画の主人公の名が「ガブリエル」であることは、しごく当然、さもありなん、と感じるでしょう。
そう、ガブリエルは、ヨーロッパやアラブの聖典(旧約聖書、新約聖書、コーランやそれにまつわる書物など)で、神の第一の使徒のひとり、大天使ガブリエル(archangel
Gabriel)にちなんだ名前にほかなりません。
地上の人びとに「生死に関する神の意思・天啓」や「逃れられない運命についての知らせ」を送り届ける天使です。
数ある天使のなかでも最強の力を備えた天使で、天使のなかの天使なのです。そして、エデンの楽園を外界の侵入者や攻撃から守り抜く守護神でもあるのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』
Leonardo da VInci, L'Annunciazione
: Galleria digli Uffizi, Firenze
マリアにイエスの懐胎を告げるのも、ガブリエルです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは絵画作品『受胎告知』で、マリアの前に舞い降りて、新たな命の懐胎を告げる大天使ガブリエルの姿を描いています。
その顔は知性に満ちているのですが、どことなく「聞かん気」そうな顔つきで、人の運命の皮肉、残酷ささえも冷徹に見据えているかのようでにも見えます。反骨の天使、叛乱者でもあるような。
あるいは、イエスがやがてローマ帝国の反逆者として捕えられ処刑される運命をも知り抜いていたがゆえに、マリアに愛児の運命を告げたのでしょう。皮肉めいた表情で。
修道士ガブリエルは、インディオとともに築き上げた「地上の楽園」を最後まで守ろうとしました。ヨーロッパと現地の権力者に異議申し立て、プロテストをしながら。
けれども、植民者の攻撃を前にして、インディオたちにこの楽園は滅亡を免れえない運命であることを告げたのも、彼でした。「神に見捨てられた」集落で、インディオと運命をともにした神父なのです。
ガブリエルという名が、なんとふさわしいことでしょうか!