ミッション 目次
原題について
考察のテーマと見どころ
あらすじ
物語の歴史的背景
ミッションの物語
ガブリエル神父
奴隷商人メンドーサ
アルタミラーノ枢機卿
インディオとともに生きた修道士たち
ガブリエルという名
南アメリカの「イエズス会布教区」
布教区の滅亡
イベリアの諸王朝の成り立ち
レコンキスタ
ヨーロッパの軍事的・政治的環境の変動
強大な諸王権の出現
ハプスブルク王朝の「大帝国」
できそこないの「フランケンシュタイン」
「国家」が存在しない時代
王権や王国の実態
それでも立派な見栄え
帝国の分裂と反乱
財政危機の深刻化
教会組織の地位とイエズス会
ポルトゥガルの事情
膨張と空洞化の果てに

教会組織の地位とイエズス会

  この反乱派とプロテスタントを厳しく取り締まったのが、イエズス会を先頭として運営されていた異端審問(宗教裁判所)でした。それは、行政機関の貧弱なエスパーニャ王権の最も有力かつ効果的な統治組織=支配装置だったのです。
  アラゴン、カタルーニャなど、それぞれの王国が反抗・分立しがちで統一的な統治秩序が欠如しているエスパーニャ。
  そのなかににあって、イエズス会を中心とするローマ教会の組織は、鉄の結束力と情報ネットワークを備え、全域で活発に動いていました。イエズス会や修道院は、宣教、異端・反乱の取り締まり、都市の治安、荒廃した農村での開拓や営農指導などで活躍していました。

  無能な、というよりもあまりに貧弱で存在感のない王権の行政組織に代わって、宗教組織が王国の秩序維持と統合のために献身的に活動していたわけです。
  それゆえ、王の側近や宮廷の内部ではたらく高官のなかには、多くのイエズス会士がいました。その政治的・思想的影響力は、エスパーニャ王権の海外拠点にもおよんでいました。

  16世紀以降、エスパーニャは、征服によってメヒコ(メクシコ)、チリ、アルヘンティーナ、ペルーなど、アメリカ大陸に多くの地を獲得し、広大な植民地をつくりあげていきました。
  これらの地域にも、王から各種の特権を与えられて、イエズス会はローマカトリック(カトリックとは「正統派」という意味)の布教伝道活動を展開しました。有能で高い規律をもつ多くの修道士を送り込んだのです。

ポルトゥガルの事情

  一方、同じ頃、ポルトゥガル王権も急速に海外膨張を進めていました。
  15世紀末にはポルトガルの艦隊がアフリカ大陸西岸を南下し、喜望峰を回航してインドと東南アジアにいたる航路を開拓しました。そして、大西洋からインド洋、東アジアにかけて多くの貿易拠点・軍事拠点を確保していきました。
  アメリカ大陸ではブラジルを獲得しました。

  しかし、イベリア本土ではエスパーニャ王国の膨張圧力を受け続けていました。
  ついに1580年、ポルトゥガルは無謀なアフリカ遠征に失敗した隙を突かれて、王位をエスパーニャに奪われ、併呑されてしまいました。こうして、エスパーニャ=ポルトガル連合王国ができあがりました。
  ポルトガルが擁していた広大な海外植民地、属領、貿易・軍事拠点が、エスパーニャ王権の支配のもとに置かれることになりました。
  かくして、エスパーニャ王権は、大西洋諸島、アメリカ大陸、アフリカ、インド洋、東南アジアなど、全地球を一周するような巨大な植民地帝国を手に入れることになったのです。

膨張と空洞化の果てに

  エスパーニャ王権は、ヨーロッパでは、イベリア半島全域に加えて、イタリアと地中海の島々、フランドル、ネーデルラント、ブルゴーニュ、オーストリアなどを統治していました。
  ただし、すでに見たとおり、それらの地域の王国や公国、伯領、都市国家などは、それぞれ別個の政治体で独自の法(統治構造と特権)をもっていました。いつもどこかで反乱や蜂起が起きていました。

  というわけで、支配する地理的圏域が広大になったがゆえに、軍事的に防御すべき戦線はとてつもなく拡大し、それだけ多くの敵対勢力と直面する(あるいは内部に抱え込む)ことになってしまったのです。帝国維持のリスクとコストも極大になってしまったわけです。
  しかも、敵と戦うための兵器(銃や大砲、火薬、武具)、兵站資材、食糧、衣料の圧倒的な部分は、なんと戦争をしている当の相手であるネーデルラント連邦(ユトレヒト同盟)の諸都市の有力商人から買い入れていたのです。
  域内から吸い上げた税金や賦課金、そしてアメリカ大陸から流入した貴金属の大半が、敵側に輸入商品の代金として支払われていたのです。

というのも、王国内での工業・製造業や自立的な貿易商人団体を育成することができなかった(というよりも、そういう産業保護育成の発想がなかった)からです。

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