ゴジラ & 怪獣映画 目次
考察の視座と課題
はじめに
怪獣映画と私の少年時代
1954年版ゴジラをめぐる問題
ゴジラのスペック
日本の軍事的環境
閑話休題コメント
対ゴジラ軍備と安保条約
特撮映画と戦争
84年版ゴジラと日本の軍事的環境
ゴジラとの戦い
日本の軍事的環境
ファンタジーとしての怪獣映画
広島とフランケンシュタイン
リヴァイヴァル後のゴジラ
ゴジラ対ビオランテ
ゴジラ対キングギドラ
タイムパラドクスのパラドクス
怪獣が破壊した建築物をめぐって
最新高層ビルの「洗礼

広島とフランケンシュタイン

  さて、日本の戦争での核被曝体験をもっと直接的に取り込んだ怪獣映画がある。
  《フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン》だ。バラゴンもまた、怪獣ファンのあいだで強い人気を誇るキャラクターだ。

  1945年連合軍による占領間近のベルリン。ナチスドイツのある科学者は、肉体の大部分が破壊されても死滅しないで再生する不死身の兵士となる人造人間創出の実験開発を進めていた。フランケンシュタイン博士は、人造人間の心臓を培養液のなかに浸して、さまざまな試験をおこなっていた。
  だが、ドイツ軍は全面敗北が不可避と見て、この科学技術を連合軍に渡さないために、この心臓を密かに同盟国=日本に送ることにした。
  心臓は特殊なトランクに入れられ、輸送用の箱に詰められ、北ドイツの港に運ばれ、そこでUボートに積み込まれた。
  潜水艦は、バルト海から北海に抜けて、ドーヴァー海峡を何とか通過して大西洋に出た。そして、アフリカ大陸南端を回航してインド洋へ。セイロン沖で日本の伊号潜水艦と落ち合い、箱を手渡した。直後、連合軍の哨戒爆撃機に発見され、ドイツのUボートは被弾撃沈。
  日本艦は、マラッカ海峡を抜けて、太平洋に逃れ、日本の広島県くれ軍港に戻った。心臓が入った箱は、そのまま広島市の陸軍病院(現在の原爆ドーム)に運び込まれた。
  運搬を指揮した海軍士官たちは、病院の医学者に荷物を引き渡した。その医学者は、命がけで君らが何を運んだか知りたかろうと言って、トランクケイスを開けて、培養液に浸された心臓を見せた。そして、これはフランケンシュタイン博士が開発した不死身の人造人間の心臓だと説明した。だが、日本も敗戦間近で、もはやこの心臓から兵士用人体を育成する余裕はなかろうと告げた。
  で、心臓は保管庫にしまわれた。

  その直後、はるか上空をB29爆撃機エノラゲイが旋回し、特殊な爆弾を投下した。人類最初の原爆投下だった。
  人造人間の心臓は、爆心地で強力な放射能を浴びた。

  それから15年後。めざましく復興した広島市街地に不思議な少年が徘徊していた。放射能で突然変異を起こした心臓の遺伝子プログラムによって、その周囲に細胞組織、身体器官の成長を成長させ、人造人間の幼児を誕生させた。その子どもは、あちこちで食物を盗んで蛋白質を補給しながら成長し、少年ともいうべき大きさになっていた。
  やがて、広島市の病院の放射線医学・放射線生物学を研究する女性科学者と出会い、食物をもらうようになった。その少年の成長速度はめざましく、まもなく身長3メートルくらいになった。そして、危険・奇怪な怪物として追われるようになった。彼は岡山県の山奥に逃げ込んだ。
  一度は、あの女性科学者の説得で、広島の病院(檻のなか)に被試験体として匿われることになったが、やがてマスコミの注目を浴び、取材中にカメラフラッシュに脅えて、逃げ出してしまった。そのとき、彼は鎖につながれた自分の右手を切り落として逃げた。

  切り落とされた手は生き続け、培養液のなかで成長を始めた。ひょっとしたら、そこから残りの人体が形成されたかもしれない。が、培養液の補充が断たれて、死滅した。
  あの人造人間は、広島から岡山県、兵庫県、大阪府などを経て、琵琶湖に達した。そのとき湖底から肩を出していたので、身長は8メートルくらいか。さらに、長野・静岡の県境山岳部を抜けて富士山麓まで移動した。そのときには、身長20mを超えていた。
  そこで、怪獣愛好家のあいだで人気が高い、地底怪獣バラゴンと戦うことになった。そのときには、身長30メートル前後になっていた。巨大人造人間はバラゴンを倒したが、巨大なタコに絡みつかれて海に沈んでしまった。

  この映像物語でも核爆発によって、人工心臓から発生した細胞群からなる――どこまでも成長巨大化する――無敵の人造人間という怪物が誕生した。ただし、何やら悲劇的な運命を背負っているようだ。

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