旧人類とその文明の滅亡後、長い年月ののち、エフタルという巨大な王国が出現した。人びとは旧人類の文明装置の残骸を地下深くから掘り出して利用し、富と権力を謳歌していた。
エフタル人たちは、腐海の森に侵入して植物を蹂躙し蟲狩りをおこなった。だが、森の破壊と蟲の殺戮は、蟲たちの怒りと反撃を呼び起こし、オーム(王蟲)の群がエフタルを襲って滅ぼしてしまった。
オームの身体に着いた胞子がまたたくまに王国全域に広がり、エフタルの都市は腐海にのみ込まれたのだ。 腐海とは、汚染された土壌で成長してきた菌類・菌糸植物が熱帯雨林のように密生繁茂する森林で、独特の生態系をもっていて、人類はそのなかでは息をすることもできない。
それから長い年月を経たのちも、やはり人類は戦争や領土の奪い合いなどの愚行と悲劇を繰り返していた。
今、民衆の悲劇のもとは、2つの侵略好きの強国、トルメキアと土鬼――以下「ドルク」と表記します――が勢力争いを繰り広げていることだった。
戦争での破壊的な兵器の使用は、人びとの生命を奪うだけでなく、大地や空気を汚染させ荒廃ののちに腐海の森を広げてしまうことになった。
そして、両強国の内部では、王族や皇族たちのあいだで血みどろのおぞましい権力闘争が展開されていた。人類は滅びに向かって急いでいるのだろうか。
ナウシカが住む小王国「風の谷」もまた、トルメキアとドルクとの大戦争に巻き込まれてしまった。
その戦いのなかで、ナウシカとアスベルは腐海の森の底に落下したことで、森や蟲などの生き物たちのはたらきを知った。彼らは、人類が汚染し破壊した生態系を浄化し再生していることを。
だが、それでも、生き物としての人類は、自らの呪われた――支配欲や征服欲という――本性にしたがって戦い生き延びようとするしかないようだ。
トルメキアとドルクとの戦争は、汚染された大陸の片隅・縁辺でかろうじて命脈を保っている「人類」を滅ぼすかもしれないほどの深刻な危機を招くことになった。
トルメキア王軍はドルク帝国に侵攻した。一方、ドルクの支配者である僧侶階級は、墓所に秘匿されていた旧人類の科学技術を発掘、解読・解明し、世界の生態系と人類、そのほかのあらゆる生き物をつくり変える知識と能力を獲得しようとしていた。
ドルク軍は自国の領土にきわめて毒性の強い菌類を撒き散らした。ドルクの民衆は山岳・高原へと逃げた。民衆は高原で、トルメキアのクシャナ王女が率いる騎士連隊に出会った。民衆はトルメキア軍を憎悪して対峙し、双方は干戈を交えようとする。
仲裁しようと双方の前に立ちはだかったユパは死んだ。
ドルクの皇帝は「最終兵器」として巨神兵を利用しようとしていた。ドルクの僧たちが墓所から発掘したテクノロジーによって、巨神兵を復活させたのだ。全面破壊ののちに、旧人類のテクノロジーによって、汚染された地球環境をふたたび組み換えようというのだ。
だが、巨神兵は自らの意思を持っていて、驕慢な人類に絶望し、今ふたたび「破壊と滅亡の裁き」を下そうとするかに見える。
一方、ナウシカは旧人類の文明を拒否して、今生きている生き物たちと共感し共生する道を選び取った。
だが、かつて滅びた旧人類の高度工業文明への道を繰り返そうとするドルクの支配者に対して、どう立ち向かうのか。
ナウシカたちは、巨神兵の力を借りてシュワの墓所を破壊した。
旧人類のテクノロジーを拒否したのだ。
環境の変動とともに自分たち現生生物は滅びるかもしれない。そういうリスクをありのままに受け入れようとしたのだ。
造物主が決めた運命に抗って、自らの力でどこまで生き延びることができるか、やってみなければわからない。滅亡が必然ならば、その自然史の流れを受け入れようというのか。