はじめに結論を言っておくと、
ナウシカたち人類、獣畜や植物、そして腐海の植物(胞子植物と菌類)と「蟲」たちなど、この世界のすべての生き物は、はるか昔に滅び去った旧人類が、遺伝子を組み換えて創り出した突然変異種(ミュータント)なのです。
その昔、都市工業文明の発達の結果、この惑星の環境と生態系は全面的に破壊・汚染され、旧人類は文明そのものの崩壊と滅亡の危機に直面しました。
彼らは滅亡を目の前にして、人類を含めた多くの生物の遺伝子を加工して、新たな生物群をつくりだしました。放射能など有毒物質が撒き散らされた過酷な環境でも生き延び、独特の進化をとげるように。
そして旧人類は工業文明とともに滅亡しました。
この世界の伝説によれば、およそ千年の昔、破局の危機に陥った世界で「火の7日間」といわれる戦争と殺戮があったのだとか。
巨神兵と呼ばれる怪物たちが恐ろしいエネルギーと破壊力をもつ火を吐いて、大陸を焼き尽くしたのです。滅びかけていた工業文明に最後のとどめを刺したのです。
巨神兵とは、これまた旧人類が生み出した人工の生物兵器としての怪物です。いわば「巨人の形をしたゴジラ」。
放射能を帯びた超高温の火炎を吐く怪物です。しかも、人類と同じように意思と思考、判断力を備えている知的生物なのです。人類が生み出した生命体でありながら、人類の救いようのない横暴さと傲慢さを知って、文明全体を滅ぼしたのかもしれません。そして、巨神兵も滅びました。
今、腐海の森のあちらこちら、砂漠のあちらこちらに、巨神兵の骸骨の化石が点在しています。腐海の森では、独特の植生と生態系が打ち立てられ、不気味な外骨格に装甲された巨大な蟲たちがうごめいています。
腐海の植物は「瘴気」という猛毒の気体を吐き出し、外界の生き物がそれを吸うと、呼吸器が一瞬に破壊され腐食して、死にいたります。腐海は、外界の人類や動物、植物の進入を拒む「死の世界」なのです。
地表の(地中も)ほとんどは放射能や有毒な化学物質で覆い尽くされています。
人類は陸地の縁辺部(かたすみ)の限られた狭い範囲に追い詰められ、都市集落や村落をつくって暮らしています。しかし、有毒物質は、そんな人類社会にじわじわ浸透し、風の谷の住民たちも1人また1人と病魔に冒され、たおれていきます。
しかも、腐海の森は拡大の一途をたどっていて、人類の生存余地はいよいよ狭められていく気配です。それなのに、人類世界では、いまだに軍備を強化して争いをこととする人びとが支配者となっているのです。
風の谷の住民たちは、風を利用した生存環境とエネルギー源に頼って生きています。
海風を利用して汚染物質の浸入を防ぐ装置、風を利用した飛翔装置、小さな熱エネルギーで動く飛行装置、風を利用した地下水くみ上げ・灌漑施設などが、谷の住民の生存を支えています。
滅亡の淵に追い込まれて、人類はようやく(文明装置を失った結果、いや仕方なく)ほとんど自然エネルギーを利用する低エントロピー社会をつくり、細々と生き延びているのです。