巨神兵の胎盤と胚の発掘を聞き及んだトルメキアは、それを奪うために軍を送って属国ペジテを襲撃し、掠奪と破壊、殺戮の限りを尽くします。
ペジテは滅び、腐海に飲み込まれるのは避けられなくなりました。侵略と破壊から逃れたペジテの人びとのうち過激派は、トルメキアへの復讐を誓ってときおりゲリラ戦を仕かけています。
2頭の巨大な毒蛇が絡み合いつつ互いに相手の「のどぶえ」をねらう――この嚇嚇としておぞましい構図が、トルメキア王国の国旗です。隙あらば相手を食い殺そうとする大蛇、それは王族の姿を表しています。
支配者、優越者がさらなる権力を求め、弱者を押しつぶす、これがトルメキアの支配秩序です。
政治と軍事では、身分や家柄がなによりも優先され、平民・庶民はどれほど有能・優秀でも高い地位とか指導的な地位には登れません。もし登ったら、エリートの陰謀に利用され、あげく殺されるか追放されるか、という風潮の王国のようです。
王は自分の子どもである王子たちを危険な前線に派遣し、侵略と苛斂誅求を要求する。戦地に赴いた王子たちは、前線での危険な任務は部下たちに押し付けて、後方で安逸と享楽、貪欲をほしいままにする。
将軍たちは、戦闘の指揮よりも、部下を私兵のように勝手に動かして財貨の掠奪と隠匿、奢侈にふける。
無理難題の戦果を強制されて、前線で奮闘するのは一部の将校と兵卒。あるいは、前線の将兵たちは生き残るために、将軍たちの掠奪命令に汲々と従うしかない。
将軍たちは、国家の戦争目的なんかは考えずに、ただひたすら我欲にはしり略奪・収奪のために軍を進める。王もそのことは知っていて、侵略と戦争を推し進める・・・。
これが、トルメキア軍の実態です。
そのトルメキアは今、ドルクとの全面戦争に突入しています。
一方、ドルクの皇帝は、単なる「トルメキアへの反撃」とはまた別の意図と戦略をもって、トルメキアを凌ぐ大がかりな破壊と殺戮を企てているようです。
さて、風の谷の王女、ナウシカは死期が迫った父親に代わってドルク戦役に赴くことになりました。
彼女を召集したのは、トルメキアの王女クシャナです。クシャナは、ナウシカと同じように、並外れて優れた戦士であり、軍略家で、ナウシカと違うのは、組織を動かす戦略眼、指揮能力を発揮する点です。とはいえ、彼女にしたがうのは、クシャナに直属する連隊だけのようです。
ナウシカは、組織や戦局を把握する能力はひときわ高いのですが、組織を動かすのを拒み、ただひたすら1人で戦うことを求めるように見えます。
しかし、王女クシャナは父王からも命をねらわれ、腹違いの兄王たちからも謀殺の罠をしかけられている、これまた孤独、孤高の姫でもあります。いってみれば、今のナウシカが育ちようによっては将来そうなるかもしれない、という先達ともいえます。
その意味では、これは「2人の王女の物語」でもあります。
宮崎駿が描く物語では、少女や若い女性が主人公になる場合が多いのですが、そこには必ず主人公の将来の姿を暗示するような「先輩たち」が描かれています。ここでも、同じ人物設定がおこなわれているように見えます。