アニメ映画で展開する物語は、原作の大きな物語の発端にすぎません。アニメの物語を手始めに、長い長い物語を追いかけながら、ナウシカたちが生きる世界がどういうものかを探っていきましょう。
ある日、はりか遠方の軍事強国トルメキアの輸送機が風の谷の山岳部に墜落します。機の残骸の近くには、ペジテの王女の遺骸と「巨大な肉の塊」が残されていました。
この塊は巨神兵の胚――受胎したばかりで細胞増殖が始まった状態――で、まだ生きていました。
まもなく、巨神兵の胚を奪取しようとトルメキアの先遣隊が訪れ、風の谷を軍事的に制圧します。
ところが、トルメキアに滅ぼされたペジテの強硬派残党が、オームの子どもを捕獲してオームを怒らせ、その大群を風の谷に暴走させ、トルメキアの軍とともに壊滅させようと企てます。
腐海の生き物、オームをも「生き物の仲間」としていつくしむナウシカは、オームの子を救い出し、オームの大群の怒りを鎮め、風の谷を滅亡の危機から救います。
原作では、風の谷を存亡の危機に陥れたこの陰謀は、トルメキアによって攻撃を仕かけられ、侵略されたドルク(皇帝が支配する圏域)軍が反撃のために企図したものとなっています。風の谷はトルメキアの属領で、トルメキア王国の本領に侵入するための要衝だからです。
ドルクの軍組織は、強力な念動力を駆使する皇帝(この段階では2人の皇帝のうちの弟)の指揮のもと、僧侶(神官)の集団が参謀、将官となって、皇帝領の諸侯国から徴集された兵卒を動かしているのです。
風の谷の悲劇は、この地が膨張主義的で侵略好きなトルメキア王の支配下に置かれたことに端を発しています。そこにいたる歴史を原作から読み取ってみましょう。