やがて、18世紀後半にモーツァルトが、ヨーロッパ音楽の革命児として登場します。
モーツァルトは、フレーズごとにイメージを表現する明確な役割を割り当てたり、旋律やリズムなどを巧妙に使い分けました。そうすることで、音楽そのものが、物語の展開を表現し、さらに、物語の主題を表現し、主導していく推進力となるような作曲法・奏法を生み出しました。
オペラの台詞や歌唱そのものも音楽的に洗練され、より多様で明確な心情や性格を表現できるようにしました。
たが同時に、声楽と同等以上に管弦楽=器楽演奏(旋律やリズム、テンポなど)による心情や状況の表現が発達していきます。
そして、物語の展開構造の明確化とか主題の構成のために音楽(声楽と管弦楽の総合)を活用する動きは、ドイツ語圏で歌劇( Singspiel )として発展していきます。
とりわけベートーヴェンは、音楽のなかに、人びとの人生や運命・宿命、思想、さらには人類社会の歴史や大変動を明確に表現する方法を組み込みました。それは、対抗する2つのテーマや動機がぶつかり合い、闘争し合い、対話し合い、中心動機の主導のもとに、より高い段階に上昇する運動という形で示されました。
音楽の曲想・楽想に、壮麗で重厚な建築物のような構築性を感じさせる体系性や構造性が持ち込まれたのです。
こうして、音楽そのものの論理構造や構築性の追求の方法論が、ベートーヴェンによってほぼ確立されました。
つまり、音楽の書法(作曲と演奏法)として、主題とか思想、歴史観とか物語性を音楽自体が語り表現するような発想=方法論が提起されるようになりました。
音楽の世界に、まるで視覚的映像を見るような、人物どうしの対決とか物語の劇的な展開が直接に持ち込まれたのです。物語を十分に表現しきれるような音楽表現の方法が生まれたわけです。
私は、今日の映画音楽の方法の出発点は、ベートーヴェンにあると思います。
この方法を、カール・マリーア・フォン・ヴェーバーがオペラ(音楽劇)のなかに全面的に組み入れることを試みました。
ある楽想や旋律、フレーズなどが特定のイメージを表すという、ライトモティーフ( Leitmotiv )つまり、主導動機・主要動因・主題表現音楽の方法が出現していきます。
すなわち、
特定の登場人物とか場面、心情や運命、事件や話題に結びついた楽想(旋律やリズムやテンポ、フレーズ)を設定します。
そして、そういう人物が舞台に登場したり、ある想いを表現しようとする場面に来たり、あるいはある方向への物語の動きが見られるときに、その特定の楽想が演奏されるようにしたのです。