フィクション上の物語だが、1980年代末、合衆国とソ連は核兵器廃絶――または大幅縮減――交渉を進めていた。背景には、ソ連がきわめて深刻な経済危機と財政破綻に陥り、ゴルバチョフ政権のもとでペレストロイカを推進したという状況があった。ソ連政府は、あまりに重い軍事費の負担を軽減しようとしていたのだ。
この状況設定は、あながちただのフィクションとは言い切れない。実際に準備交渉は始まっていて、もしソ連レジームが続いていたら、大幅な軍縮交渉は実際に進められていただろう。
だが、それでもソ連レジームの崩壊は免れなかったのではないだろうか。社会生活の持続=再生産が行き詰まっていたからだ。
さて物語では、その年の秋から、アメリカとソ連は核兵器大幅制限条約を取り結ぶための予備的交渉を開始した。ペンタゴンとクレムリンの両軍の首脳陣――陸海空三軍および統合幕僚部の将官たち――が実務上の詰めをおこなっていた。
交渉の会場は、旧「西ベルリン」の郊外。
■軍事的特異地点としてのベルリン■
ところで、当時、西ベルリンはきわめて政治的・軍事的に微妙な状況にあった。
東ドイツ=ドイツ民主共和国が存在していた頃の昔の地図を見てみると、
ベルリンという都市は、東ドイツ側の、しかも東寄りに位置していた。
つまり、西側諸国が支配する西ドイツ=ドイツ連邦共和国からは、はるか遠く離れていた。にもかかわらず、ベルリンの西部は連合諸国の西側同盟側が軍事的に支配していた。
いわば、「社会主義レジーム」という海になかにある――西側レジームの――離れ小島、孤島がベルリンだった。
では、西側連合は、西側支配地域からベルリンまでどのようにアクセスしたのか。航空機で行くにしても、ベルリンまでの空域の制空権は東側=ソ連側にあった。
外交上、軍事上、きわめて巧妙なバランスの上にアクセス道路と航空路が設定されていた。東ドイツ=ソ連側の軍事的支配権と司法管轄権に囲まれた社会空間のなかを道路と空路が孤立して通過していたのだ。
つまり、西側の外交特権が及んでいるきわめて狭い空域と1往復の専用道路だけが、西ドイツからベルリンへの連絡経路だという状況にあった。だから、とりわけ地上では、連絡道路の周囲の森林や田野は東ドイツとソ連が全面的に支配・統制する空間となっていた。
こうした事情が、謀略の発端の背景にあったのだ。映像物語の制作陣は、物語のプロットを描くにさいして、このような背景状況に目をつけたというわけだ。