物語は、原始地球の誕生から数十億年を経た時期、古生代のカンブリア紀(5億3千万年前)から始まる。
その時代に、はじめて動物の生存競争に激烈な「捕食関係」、つまり食物連鎖のピュラミッドができあがった。この映像物語は、熾烈な「食う食われる」という生存闘争の形態が生じたのは、動物に「視角=目」という感覚器官(と視角を解像する中枢神経組織)が備わったためだ、と説明する。
この時期の地表大気の酸素濃度は、現在の酸素濃度の30%程度、つまり6%くらい。原始的な植物が活動を始めてからまだあまり時間が経過していなので、酸素分子の量は少なかったのだ。
生物が存在できるのは海のなかだけだったという。そして、激しい闘争の物語は、海の浅い場所で展開されていた。
物語の最初の舞台は、現在の中国、澄江( Chengjang :チェンジャン)。ここでは、今日、カンブリア紀の多種多様な生物化石群が発見されている。この時期、この場所で発見される化石動物群を「チェンジャン・モンスター」と呼ぶらしい。
ことほどさように、この映像物語は、過去のある時代の典型的な生態系や生物進化が化石をつうじて確認されているいくつかの場所を舞台としている。
この生物世界で最初の捕食者( predator )は、アノマロカリス( anomalocaris )。アノマロとは「奇妙な」とか「異様な」という意味で、カリスは「エビ」。「奇妙なエビ」という意味だ。
というのも、あのアノマロカリスの頭部の2本の触手は、その化石が最初に発見された当時、この生物の身体の器官=部品ではなく、2体のエビの化石だと考えられたからだ。足のない奇妙なエビの胴体だと考えられたのだ。
この「エビ」の節を備えて湾曲した胴には、一列(左右一対ではない)の突起群があったが、その断面構造は、歩行=移動を可能にするような筋肉線維は見られず、か細い神経線維の痕跡しかなかった。その意味では、足というよりも触覚というべきものだった。また頭部の部分化石もなく、頭も足も見つからない、奇妙なエビだった。
あの円形の口(缶詰のパイナップルのような形状)もまた、別の生物化石だと見られていた。
カンブリア紀に、これほど巨大(1m以上、最大のものは2mを超える)で複合的な身体組織を持つ動物が存在したとは想定されていなかったことも影響したらしい。
その後、この動物の全身の化石が発見された。だが、「奇妙なエビ」という学名は定着していて変更が難しかったので、今だに「頭部の触手」の名前で、この動物の全身を呼称している。
さて、浅海の底を這い回っていたのは三葉虫( trilobites )。トゥリは「3つ」、ロビテスは「外套」または「身体の外装」という意味。全身を堅い甲冑=外骨格に覆われている。
化石で見るとおり、身体の中心とその両外側とが、分節されているので「三葉虫」と呼ばれる。
海底を這い回る三葉虫を襲撃し捕食するのは、アノマロカリス。いくつもの系統がいたらしいが、最大のものは体長2mを超える。発達した眼=原始的複眼を持っていた。素早く動き回る三葉虫やそのほかの動物を捕食していた。
三葉虫にも眼があった。
つまりは、近づき素早く動き回る相手を視角によって知覚して、逃げたり隠れたりという激しい動きをともなうようになった。熾烈な競争を生き延びるために、この時代、(子孫を残すほどに生き延びることができた種)動物の身体は強力な装甲を備えるようになった。
つまり、発達した眼と装甲、そして高度な運動能力なしには、動物は生き残れなかった。
カンブリア紀は、動物の身体構造の形状・設計(デザイン)の実験場だった。実に奇抜なデザインの動物が発生進化した。