ウォーキング with モンスターズ 目次
恐竜よりも古い動物たち
見どころ
古生代カンブリア紀
身体の形状と構造
シルル紀
内陸河川への進出
デヴォン紀
石 炭 紀
ペルム紀
①ペルム紀初期
プレデターの産卵・孵化
②ペルム紀晩期
砂漠での生存競争
古生代の終焉
ペルム紀から中生代三畳紀へ
恐竜類の時代へ
「大量絶滅」の古生物学
大量絶滅の痕跡の年代記
大量絶滅の主要な原因

地質年代図を見る

プレデターの産卵・孵化

  さて、枯れた針葉樹の根元近くに、1頭のディメトゥロドンの雌がいた。体内に受精した卵を宿していた。好適な産卵場所を見つけたようだ。
  産卵期が迫っていた。だが、産卵はきわめてリスクとコストが大きな命がけの仕事だ。そのためには、たっぷりと栄養を蓄えておかなければならない。

  産卵の準備作業の1つとして、彼女は狩猟に出かけることになった。エダフォサウルスの群れに近づいていった。だが、この時期には、リスクを極力避けねばならない。そこで、子どものエダフォサウルスを狙うことにした。
  雌は、群れの前に姿をさらした。威嚇して群れの秩序を乱して、狙う目標を成獣の群れから引き離すためだった。作戦は成功して、ディメトゥロドンは若いエダフォサウルスを捕まえた。
  大きな歯で止めを刺し、勢いよく肉に食らいついた。
  だが、まもなく、血と肉の匂いに誘導されてディメトゥロドンの雄が何頭か近づいてきた。雌よりも一回り大きく、より凶暴だ。逆らえば、自分が餌食にされる危険がある。そこで、雌はそこそこに腹を満たすと、獲物から遠ざかった。

  雌は枯れ木の根元近くの砂地に大きな穴を掘って、産卵場所を整備した。そして、産み落とした多数の卵に砂をかけて、埋めた。地表気温の変動の影響を小さくするためだ。あるいは、卵泥棒に卵の匂いを嗅ぎつけられないためか。
  そのあと、雌は、孵化するまで、ずっとこの近くにとどまって、食餌もしないで卵を外敵から守らなければならない。


  だが、あるとき、産卵場所の地中に雄が鼻面を突き込んでいた。卵を食べようとしているのか。違った。
  雄が地中から引っ張り出して噛みついた獲物は、セイモウリア( seymouria )という爬虫類だった。セイモウリアという名の由来は、北米テクサス州のセイモーアという化石発見場所の地名による。体長0.6~1m。小さな節足動物や爬虫類・両生類の卵を掠奪するのが得意技だ。
  卵は栄養豊かな餌だが、それよりもずっと大きな獲物を捕らえるのが、ディメトゥロドン雄の狙いだったのだ。とにかく、これで、卵たちは生き延びることができた。

  だが、危険は次々に襲いかかってきた。
  それからしばらくすると、別の雌のディメトゥロドンがこの産卵場所にやって来て、卵を保護している土砂を掘ろうとした。やはり、好適な場所に産卵したいからだ。そのためには、別の雌が産んだ卵なんかは平然と掘り出し破壊してしまう。現在でも、ウミガメはこのような、仲間の卵の安全にはとんと無頓着な仕方で産卵する。
  そこに卵に迫る危険を察知した母親=雌が駆けつけて、新参者の雌を追い払おうとした。だが、その雌は引き下がるつもりはない。というわけで、雌どうしが激しく闘争することになった。互いに相手を撃退しようとする。プレデターどうしの争いは熾烈だ。
  結局、母親がライヴァルを撃退することができたが、あちこちが傷だらけになった。ことに頭部には深刻な傷を負ってしまった。自分が生き残るためには、もはやこの産卵場所にとどまって防御し続ける力は残っていなかった。母親は産卵場所から離れていった。

  というのは、おりしも地中で卵が孵る動きや音がし始めたからだろう。あるいは、鳴き声が聞こえたか。孵化の気配を感じた途端、雌の母性本能は消滅するのだという。
  殻を割って卵から出てきた幼獣は、大きさは30㎝に満たないが、体形は親そっくりだ。この相似形のままどんどん巨大化して、生き続ける限り、体長は巨大化し続けるという。
  卵は短時間に一斉に孵化する。そして、子どもたちは一斉に身を隠す草叢や樹木に向かって走り出す。なぜかというと、幼獣たちは、今や成獣ディメトゥロドンの格好の餌となってしまうからだ。だから、一斉に多数が孵化して身を隠すところに向かって逃げ出す習性=行動パターンを身につけたグループだけが生き延び、増殖し続けることができたのだ。

  幼獣たちはさまざまな方向に逃げ回る。そのうちの1頭を追い回しているのは、なんとあの母親だった。彼女は、ずっと食事をしていなかったので消耗していた。幼弱な子どもたちは、体力を回復するための獲物でしかなかった。
  だが、追いかけられた幼獣は、エダフォサウルスの糞のなかに潜り込んだ。いやな臭いに一瞬、母親が怯んだすきに、幼獣は近くの樹木の幹を駆け上がり、高いところまで避難することができた。身の軽い幼獣は、素早く樹に登ることができたのだ。現在のヒグマと同じ習性だ。

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