荒涼とした砂漠にも、活発な動物はいた。ディイクトドン( diictodon :「2つの鋭い前脇歯=牙」)という獣弓類型爬虫類で、猫ぐらいの大きさで、大方は地下1mほどの深さの穴倉で過ごしている。穴は、発達した筋肉を持つ前足を使って自ら掘ったものだ。
高温で乾燥した砂漠でも、地中に潜れば、かなり涼しい住環境を確保できる。食べ物は、主に砂漠に生える植物の根や地下茎。これらの食物は非常に硬いので、鋭く尖った2本の大きく鋭い歯が大いに役立つ。植物の根や地下茎を食べることで、砂漠の地表ではめったにお目にかかれない水分を十分に補給していた。
ときに彼らは地表に出て、生殖の相手を見つけたり、そのためにも自分の縄張り(テリトリー)を守り、拡張しようとした。ということは、同じ種の仲間どうしで激しいテリトリー争いが展開することになる。そのくらいに密集して暮らしていた。現在のミーアキャットやプレイリードッグのように。
弱小な動物が密集して生活することは、集団の誰かがいち早く危険や敵を発見して仲間に知らせて避難するためにも必要だった。そのことから、この動物は仕草や鳴き声によって、仲間どうしのコミュニケイションをとっていたであろうことが推測される。これはまた、聴覚と脳の発達を促したであろうことも。
ディイクトドンは、ディキュノドン( dicynodon :「2つの犬歯」)の仲間だという。
さて、ディイクトドンのコロニーにゴルゴノプスがやって来た。デイイクトドンは素早く穴倉に逃げ込んだ。ゴルゴノプスは、穴の口元まで鼻を近づけて獲物を探そうとしたが、すばしこいディイクトドンは穴倉深く逃げ込んで、容易につかまりそうもない。というわけで、ゴルゴノプスは諦めて立ち去った。
というのも、ディイクトドンは巨体を誇るゴルゴノプスはにとっては、餌としては小さすぎて、苦労して捕まえるほどの価値がないからだ。
大陸の内部では高温化とそれにともなう乾燥化が持続した。広大な沼沢地や湿原、湖がどんどん干上がっていった。哺乳類型爬虫類にとっては給水場が失われていくことを意味した。小さくなってわずかに残った水場には、多くの動物が集まって来る。
すっかり小さくなった沼の近くで、ゴルゴノプスは獲物を待ち伏せすることにした。
ある水場に雌のゴルゴノプスがやって来た。水を飲むためだ。ひときわ目立つ巨体を誇る、そのゴルゴノプスは若い仲間を追い払った。そして、たっぷり水を飲もうと水面に近づいた。そのとき、水中から3mはあろうかという両生類が飛び出して、ゴルゴノプスの鼻ずらに噛みついた。
けれども、相手が悪かった。自分より一回り以上も大きなゴルゴノプスでは、勝ち目がない。その動物は急いで水中に逃げ戻った。
ラビュリントドンティア( labyrinthodontia :「迷路の紋様の歯」)という、ワニに似た生態を持つ両生類で、頑丈な頭部・顎と鋭い歯を持っていた。
分厚い頭部の化石についた歯の表面には、複雑な迷路のような模様のエナメル質の細かい襞があったことから、このへんちくりんな名前がつけられた。
おそらくは、水中で魚などを捕食したり、水辺に来る動物を餌にしているのだろうが、棲み家の湖が乾燥化で小さくなり水中の餌がいなくなったために、すっかり餓えていたようだ。見境なく襲った相手が凶暴なゴルゴノプスとは、この両生類はすっかり運に見放されたようだ。
その後も、乾燥化は進み、ついに小さな沼はすっかり干上がってしまった。
それでも、あのゴルゴノプスは獲物を求めて訪れた。何やら動物のにおいがするようだ。鼻面を泥のなかに突っ込んで、何か大きなものを引き出した。あの、ラビュリントドンティアが身体の周りに粘膜を張り、次の大雨が来るまで、乾燥を防ぐ、大きな繭のような保護膜にしていたのだ。
だが、保護膜を噛み破られて、両生類はゴルゴノプスの餌になってしまった。