4億1800万年前(シルル紀後期)。
ミュロクンミンギア類はその後、約1億1千万年のあいだに進化して、ケファラスピス( cephalaspis )に進化する。ケファラは「頭部」で、スピスは「重装甲」という意味。名前のとおり、これは頭部が頑丈な装甲板によって保護された魚類だ。胴体は鱗で覆われ、胸部の下側に1対の鰭がついていて、ささやかな背鰭と大きめの尾鰭も現れた。
巨大な頭部の不格好なケファラスピスは、体全体をくねらせ、尾鰭を打ち振りながら、貧弱な胸鰭でバランスを保ちながら泳ぐ。いや、泳ぐというよりも、浅い海底近くを這うように移動する場合の方が多いのかもしれない。というのも、紫外線が差し込む浅い海底で生育する藻類を削ぎ取って食べるからだ。
もちろん、顎はないし、咀嚼ができる口蓋や歯もない。まだ無顎類の段階なのだ。
場所は南部ウェイルズ(ブリテン西部)。
酸素濃度は、現在よりも30%低い。
ケファラスピスの後ろから、巨大な影が忍び寄る。オオウミサソリ( brontoscorpio anglicus :ブロントスコルピオ・アングリクス)だ。ブロントは「雷」(ここでは「衝撃的に巨大」という形容)で、スコルピオは言うまでもなく「サソリ」、アングリクスは「イングランドないしブリテン」。つまり、イングランドで発見された超巨大なウミサソリだ。
この海には、体長が5~10mにもおよぶ巨大な、貝殻をもつ頭足類――タコやイカ、オウム貝などの仲間――( cameroceras :カメロケラス)が悠然と泳いでいた。カメロは「部屋の間仕切り」、ケラスは「角」という意味。つまり、巨大な角のような形状の巻貝殻には、部屋のような間仕切りがあって、浮力の調整に役立っていたのだ。本体はイカ(オウムガイのような原始的な形)だ。
オオウミサソリは体長が1m以上で、鰓呼吸で海中で暮らす。胸部から延びる何対もの足のうち前方の2対には、ハサミがあって、尾の先端には毒針がついている。現代のサソリの原型が完成している。
オオウミサソリは、自分よりも体の小さな動物を捕食する。尾の先端の毒針を突き刺して倒してから、口に運ぶのだ。
そして、この巨獣から逃げ回るケファラスピスだが、分厚い装甲の頭部はいうまでもなく、全身の装甲のために、身体の内部の貧弱な筋肉の割にものすごく体重が重い。そして、粗雑な鰓=呼吸器官。そして幼弱な心臓と血管。だから、速く泳げないうえに、すぐに酸素不足=息切れになってしまう。
だから、必死に逃げ回るのだが、数十秒ごとに泳ぎを止めて、体中の筋肉に養分と酸素を補給しなければならない。せっかく引き離したウミサソリが、すぐ後ろまで迫ってくる。
ケファラスピスは、何とかウミサソリの魔手から逃れようとして、砂が厚く堆積したところまで逃げてきた。突然、海底に何か異変を感じて、泳ぐ進路を変えた。この魚は、海底をおぼろげに探索するために、東部の下側や腹側にセンサーを備えているので、海底の異変には反応できるのだ。
だが、ウミサソリは異変に気づかずに直進した。
と、突然、海底からウミサソリの2倍はある怪物が出現した。巨大なエビのような、プテリュゴトゥス( pterygotus )だ。プテリュは「翼」「大きな鰭」、ゴトゥスは「獣」「怪獣」。ウミサソリの遠い親戚で、体長は2.3~3mもある。
名前の由来は、体側に大きな翼のような鰭(平たい足?)があるからだ。
プテリュゴトゥスは、ウミサソリを捕らえると、身体を引き裂いて、自分の子どもたちに餌として与えた。