4億1000万年~3億6000万年前。
この試みの長い長い反復の歴史なかで、魚類の身体は変化していった。まずは、内骨格組織の発達である。
そして、鎧で覆われた頭部の内部にはより容量の大きな脳が発達した。それと連動して顎が出現し発達していった。
腹部の鰭の骨格は、筋肉によって脊椎=背骨と連動するようになった。そして、前部の1対の鰭が前足に、後部の鰭が後脚になっていった。尾鰭は後方に長く発達して、強い骨格と筋肉で支えられるようになった。
こうして両生類( amphibia )が誕生する。アンフィは「両様の、両性の」ビア(ビオ)は「生物」という意味。
物語の舞台は、デヴォン紀後期(3億6000万年前)の北アメリカ、ペンシルヴェニアに移る。大気中の酸素濃度は、現在よりも20%低い。
大陸内の水中に生息していた両生類の先祖、ヒュネルペトン( hynerpeton )は陸上への攻勢を開始した。ヒュネルペトンは、ヒュネル(「水生」という意味)とヘルペトン( herpeton :爬虫類――爬虫とは、地面を這い回るものという意味――)との合成語で、「水生の爬虫類」ということになる。
イクテュオステガ( ichthyostega :魚のようなトカゲ/トカゲと魚の合成物)と、だいたい似たような意味になる。
さて、体長5フィートほどのヒュネルペトン(オオサンショウオのような形状)は、水辺の近辺の陸上で生活していた。もちろん、あまり深くない水のなかを泳ぐこともできた。だが、節足類・昆虫類のある部分が進化して内陸で爆発的に多様化し増殖したことにともなって、それを捕食するために陸上に進出した。
というわけで、両生類の誕生の前史として、陸上への植物の進出と多様化、これに続いての節足動物の陸上進出の物語があった。が、この映像物語では、描かれていない。わずかに植物の上陸と進化、とりわけ地上高くまで身体を成長させ、多数の枝を伸ばすようになるシーンが描かれる。
ヒュネルペトンの身体は柔らかな粘膜に覆われていて、この皮膚は絶えず水分=湿り気を帯びていなければ生き続けられなかった。それゆえ、水辺から遠く離れるわけにはいかなかった。だが、生殖=産卵・受精とか捕食のためには、身体を大気にさらす必要があったらしい。恐ろしい水生のプレデターから逃れて、食餌や生殖をおこなうために。
さて、このヒュネルペトンの1頭が水中に潜って泳ぎ出した。尾をくねらせて推進力を生み出す。ところが、その背後に、この両生類よりも1回り小さな魚影が迫ってきた。ステタカントゥス( stethacanthus 意味は「胸鰭と背の突起」)という、はるか古代のサメ類だという。名前のとおり、背中に「かなとこ型」帽子のような突起をのせている。これは背鰭の1種で、性的に成熟した雄の性徴――雄鹿の角のように――だと見られている。
体長は、だいたい1m以下だが、きわめて貪欲で兇暴な捕食者だった。もっぱら自分よりも小さな動物を狙う。この映像では、自分の2倍近い大きさのヒュネルペトンを追いかけている。よほどに飢えていたのか。
われらがヒュネルペトンは、背後迫るステタカントゥスに気づいたのか気づかないのか、素早く泳ぎ続ける。サメの遠い先祖は両生類に迫ろうとした。
そのとき、はるかに大きなな魚類がステタカントゥスに追いつき、鋭い歯でサメの身体を引きちぎり、一瞬のうちに大きな口で飲み込んでしまった。この魚は、体長3~6mにもおよぶ巨大な条鰭類で、ヒュネリア( hyneria :「水生動物、魚」という意味)と名づけられている。要するに、「巨大なシーラカンス」だと思えばいい。
ヒュネリアにとっては、ステタカントゥスは雑魚にすぎない。食欲を満たすには取るに足りない。で、この巨大なプレデターは、次の標的をヒュネルペトンに定めた。両生類は、必死に逃げる。水中の朽木の隙間を抜けて逃げる。だが、ヒュネリアは、身体を軽くひねって朽木を砕き吹き飛ばしてしまった。
ヒュネルペトンは、辛うじて浅瀬から陸に飛び出して、その4本の脚を使って逃避することができた。陸上を歩いて移動する能力は、してみれば、捕食者から逃れるためには、有効な手段だったわけだ。
このヒュネルペトン、生殖活動は水の外(浅瀬にせり出した岩とか水辺に倒れた木)でおこなうが、受精した卵は水中に落下して孵化を待つことになる。
ということは、今日のカエルやイモリのように、オスが水辺の近辺に自分の縄張り( territory )を保有することは、メスの関心を引き自分の子孫を残すために不可欠の条件だった。つまりは、オスどうしが縄張りとメスの獲得をめぐって激しく争うということになる。
浅瀬に卵を産み落とすうえで好適な場所を確保したオスは、メスに気に入られて生殖=受精を成功させた。 やれやれ、と安心したところに、突如水中から、あのヒュネリアの巨体が飛び出してきた。ヒュネルペトンのカップルは、なんとか巨大魚の歯牙から逃れることを得た。ところが、このヒュネリアは、発達した条鰭を使って、岸辺に乗り上げて移動できる(現在のシャチのように)。そのため、オスはあっというまにヒュネリアの餌食になってしまった。
ヒュネルペトンの尾を口にくわえたヒュネリアは、頭を振って、両生類を水中に投げ込むや、水中に戻って1呑みにしてしまった。
やがて、ヒュネルペトンを含む両生類のなかから進化を遂げて、表皮に硬い鱗を隙間なく張りめぐらせて、地上での乾燥にめっぽう強い新種が誕生した。爬虫類( sauria
/ reptile )が出現した。
だが、乾燥した陸上での生存と生殖を可能にした条件は、彼らが硬質の殻に覆われた卵を産むように進化したことだった。この卵、殻と羊膜の内部では両生類や魚類の受精卵が水中で成長し孵化していく過程が展開していた。胚幼体は羊膜を通して呼吸するようになった。
こうして、成体は乾燥した内陸部でも生殖・産卵ができるようになった。