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バブリーな金融界から脱出して、もっと地道な仕事と生活に移ろうとして模索する青年の物語をじっくり観てみよう。今回は、ケビン・ベイコン主演の《クイックシルヴァー (1986年)》を取り上げる。世間の大方の映画評では、大した冒険もなく地味すぎて評価の低い作品のようだが、私は以前から非常に高く買っている。
原題は Quicksilver で、ニュウヨークにたくさんあるバイスクル・メッセンジャー会社の名前「クイックシルヴァー」。日本語にすると、「銀色特急便」とか「銀輪特急配送」というような感じになるかも。
クイックシルヴァーには、容器のなかで液体状に素早く動く銀色の金属ということで、「水銀」という意味もあるが、ここでは直接には無関係。とはいえ、素早く動き回るという意味は共通している。
ひとりの若者がニュウヨーク・ウォール街の株式仲買業界(証券会社)で頭角を現した。高額の報酬、高価なスーツと洗練された物腰。世間から見ればエリートだが、株式市場や先物市場の秒刻単位の動きを追いかけ、精神をすり減らすギャンブルでもある。彼は大きな挫折を経験し、家族の資産を紙屑にしてしまったことから、それまでの「生き方」の見直しを迫られた。
挫折感と苦悩のなかで、自分らしい仕事を見つけるために、若者らしい「ひたむきさ」で悩み、別の生き方への模索を続ける…そんな姿が静かだが深い感動を呼び起こす。
自転車好き、チャリダーにはぜひ観てほしい作品。
ジャック・ケイシイは大学卒業後、ウォール街の株式仲買業会に就職し、ニュウヨーク証券取引所で(NYSE)で大胆な賭けに出て、2週間で数千万ドルの利ザヤを稼ぎだして「伝説」をつくり出した。株価の動きについての彼の勘と読みは、じつは丹念で綿密な情報収集と分析によって立っていた。だが、株価の動きは、市場の参加者がそれぞれ自分の思惑で利ザヤを求めて駆け引きを展開するがゆえに、偶然が支配する世界だ。
ところが、確実に利益をものにできると呼んだ銘柄株価の動きについての読みが外れ、大きな損失を出してしまった。彼が「買い」に投入した資金には、彼の父親の――夫婦の老後のためにコツコツ蓄えてきた預金資産も含まれていた。父親の落胆ぶりを知ったジャックは、自分の職業と生き方を根底から問い直そうとする。
苦悩のあげく彼が選んだ次の仕事は、オフィスからオフィスに手紙や荷物を配送するバイスクル・メッセンジャーだった。この仕事には、世界中から成功を夢見てやって来た、たくさんの貧しい若者たちが集っていた。彼らは、それまでジャックが属していた「高尚」で洗練された世界で出会う人びととは大きく違っていた。大都市にやって来てようやく下積み仕事にありついた貧しい若者たちは、毎日、厳しい現実に向き合っていた。
彼は新たな仕事のなかで、そんな若者たちと出会い友情を築いていく。同僚ヘクターも、新しい友人のひとりだ。移民労働者のヘクターはホットドッグ屋開業を夢見ていたが厳しい現実の壁にぶつかっていた。彼の開業資金のために、ジャックはNYSEで最後の賭けに挑むことになった。
他方で、自転車配送の同僚のなかにはヴードゥーのように、犯罪組織の麻薬販売に絡んで大金を稼いでいる者もいた。ヴードゥーは地回り「ジプシー」によって殺されてしまった。ジャックはその殺害場面を目撃した。
ジプシーは後釜にテリという少女を据えようと画策する。ジャックはテリをジプシーの魔手から守ろうとしてジプシーと対立。命を賭けた駆け引きが始まる。