クイックシルヴァー 目次
自転車で再出発
原題と原作について
見どころ
あらすじ
自転車大好き!
ジャック・ケイシイ
ツキのない1日の始まり
挫 折 !
打ちのめされた父の姿
新たな生き方を求めて
仕事仲間たち
少女テリ
それでもジャックはジャック
ふとした疑問
自転車の曲乗り
勝負や賭けを避けるジャック
ヴードゥーの死
恋人との別れ
最後の株取引
テリとジプシー
ジャックとジプシーとの対決
再   会
株式市場という理不尽な世界

最後の株取引

  ジャックはようやく見込みのあるヴェンチャー企業株を見つけた。
  さて、ヘクターはメキシコ系移民の高利貸しに渡りをつけた。その夜、彼は高利貸しとの交渉に臨んだ。
  だが、高利貸し側としても、移民を中心とする低所得層に小売で資金を貸し付けることには、大きなリスクがともなっていた。返済不能に陥る危険はもとより、取立てのリスクとコスト。そして犯罪発生率の高い区域での商売だけに自分の身体生命および財産の安全を守るための独特の手立ても必要だった。
  だから、ヘクターが高利貸しと交渉に臨む場合にも、高利貸しの取り巻き(ボディガード兼務)による身辺調査や面通しなど、幾重もの障壁が立ちはだかっていた。で、その夜、ようやく高利貸し本人との直接の交渉に臨む段取りになった。
  ジャックは、その交渉前に、どうにかヘクターと高利貸しとの待ち合わせ場所を探し当てた。ジャックはヘクターに、どうせリスクを冒すなら1回だけ、株投機に賭けてみないかと提案した。だが、元金をそっくり失う場合だってある、と断って。
「うまくいかない場合もあるんだね」とヘクター。
「そのとおりさ」とジャック。
  結局、ヘクターはジャックとの友情=信頼に賭けることにした。

  ジャックの金を預かって、ある朝、ジャックはスーツを着てNYSEに向かった。
  NYSEの受付係りは、ジャックの「復帰」を喜んだ。すぐに仲買人資格登録を済ませてくれたうえに、1人じゃ大変だろうと、電話係の助手となってくれた。それでも、手が足りなくて、ジャックはかつての同僚に手助けを頼み込んだ。
  だが、株取引はこれが最後だと言い切った。
  元の同僚は、ジャックと共同で仲買グループを立ち上げる夢(ジャックと組めば、多額の投資資金を回すという提案をした大口の個人投資家がいたから)を、ここで諦めることになった。が、快く最後の挑戦の支援に回ってくれた。
  というわけで、これまた友情と信頼関係に支えられて、ジャックの最後の挑戦が始まった。都合が良すぎる展開だが、まあそこはフィクション、エンターテインメントだ。


  ところで、ジャックがその日の勝負につぎ込もうとした資金の内訳については、よくわからない。で、私の勝手な憶測で描いてみると、
  ヘクターがジャックに渡した資金は、まあ1000ドルくらいではないか。そこにジャック自身の資金を2000ドルくらいを足して、同僚からも2000ドル借りて元手にした。これで5000ドル。そして、その当時の証拠金取引を利用して、2万ドルまでの限度額を設定してもらったのではないか。

  その資金で、有望なヴェンチャー株を目いっぱい買って、その日のうちの株価上昇を待つという作戦を立てた。
  企業業績と株価動向のからして、その日にはある程度急速な上昇曲面に転ずるだろうという読みで。
  その企業の株価は低迷していて、朝のうちは1ドル15セントくらい。ジャックは2万ドルの資金で、売りに出たその株を買い漁った。だが、午前中は一進一退。だが、限度額いっぱいまで、ジャックは売りに出された株を買い続けた。
  しかし、値上がりする兆候は現れなかった。
  そこに、ヘクターから連絡が来た。
「どんな様子だい」
「芳しくない。買い取った株は低迷したままだ」
  そして、 「ああ、今女房が産気づいた。もうすぐ生まれるってさ。じゃあ、これで産科病棟に戻るから…。君は良くやってくれたよ」
  元金はもう戻りそうにない、と覚悟した声音だった。というよりも、彼は今、父親になるという興奮と喜びでいっぱいで、出資金のことなんかはどこかに飛んでいたのだ。いや、じつに心の広い人間だ。ヘクター万歳!

  さて、NYSEでは午後も、その会社の株価は低迷し続けた。元同僚も受付係りも、すっかり心配、憔悴した表情。
  だが、ジャックは平静だった。もう待つしかない、と腹を括っていた。
  その日の午後も半ばを過ぎた頃、一転して変化が現れた。
  ヴェンチャー企業の株価はジリジリと上昇し始めた。1ドル25セント、1ドル50セント、そして2ドル。3ドル、ついに4ドルの大台に。まだまだ上昇しそうな形勢だった。   元同僚も受付係りも大喜び。まだまだ上昇するぞ、と有卦うけに入った。
  が、ジャックはそこで賭けを降りて、4ドルで全株式を売り払うと言い切った。
  必要な金額だけ手に入れればいい、というのがジャックの方針だった。
  結局、差し引きで5万ドルそこそこの利ざやを稼いだのではないか。

  ヘクターに1万ドルを分配して、2人の友人に5000ドル。そして父親には2万5000ドルを送金して、自分の取り分は出資元金だけ。利益は1ドルも受けなかった。株投機からの利益はもう手にしない、という決意の表れだったようだ。

  で、NYSEを出たジャックは、ヘクター夫妻がいる病院に向かった。
  病院では、ヘクターは男の子に恵まれて(多分女の子でも同じだっただろう)大喜び。お金のことは完全に頭から飛んでいた。
  だから、ジャックが大きな利益が出たことを話そうとしても、取り合わず、 「君は本当に良くやってくれたよ。もうそれだけでいい。そんなことより、俺には男の子が授かったんだぞ、すばらしいじゃないか」
  午前中の状況から、資金は戻らないものと覚悟していたのだ。
  その後のシーンは描かれないが、ヘクターは、生まれた男の子と奥さんにすばらしい誕生祝いができたと大喜びしたはずだ。

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