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だが、そんなジャックを執拗に追いつめ、勝負と賭けを迫る者がいた。ヴードゥーだ。
彼は全身どっぷり悪の道の泥に浸りながら、大金を稼ぎ、自分の存在感を誇示してきた。彼には、元エリートのくせに何ごとにも逃げ腰に見えるジャックは目障りだった。どことなく優雅な身のこなしも。
その日は、衝突と勝負を避けようとするジャックの逃げ場を断ってしまった。仲間にジャックとヴードゥーのどちらが自転車レイスに勝つか賭けをさせ、ジャックが逃げれば、仲間の掛け金を没収するようにことを運んだのだ。
仲間たちの金をみすみす奪われるのはたまらない、とジャックは勝負に応じた。
早朝の街路を自転車で駆け抜け、どちらが早くゴールに駆け込むか、の勝負だ。
長い坂を駆け下り、人や車の間を駆け抜け、狭い裏道で先頭を奪い合う。
ところが、ヴードゥーに麻薬などの犯罪の片棒を担がせてきたジプシーが、このマッチレイスを目にした。この頃ジプシーにも盾突き、手数料の上乗せを要求するようになり、目障りになってきたヴードゥーをこの世から消す絶好の機会だと踏んだ。
ジプシーは2人のあとを追跡して、コースを読んだ。そして、2人が走り込んでいきそうな街路に交差する裏道に車を進めた。
その街路に走り込んだジャックをヴードゥーは横に突き飛ばした。コースを逸れたジャックの進路の先にはトラックが止まっていて、荷降ろし用の板が地面から荷台に斜めに差しかけてあった。ジャックの自転車は舵を取られたまま板を登って、トラックの荷台まで乗り上げてそこで転倒。
それを尻目にヴードゥーは勝利を確信して走り去ろうとした。
そのとき、ジプシー車が走り込んできて、ヴードゥーを跳ね飛ばした。ジプシーはヴードゥーへの殺意を隠さなかった。その一部始終をジャックは目撃した。そのジャックに不敵な笑いを残して、ジプシーは走り去った。
このとき、ジャックはジプシーに強い怒りと挑戦意欲を覚えた。
だが、ジャックはヴードゥーの妨害によって命を助けられたのだ。2人並んで走っていれば、死人は2人だったさ、と言うのはエアボーン。まあ、軽い怪我で済んでよかった、というのだ。そのエアボーンもまた、ジプシーには強い憤りを感じていた。
このときを転換点にして、ジャックの心理と行動スタイルは変化し始めた。他人と積極的に関わり、親身になって心配し、お節介を焼くように。
ふとしかきっかけでジャックは、ヘクターが転職のために、ホットドッグスタンド(簡単な調理設備付き)を購入しようとしていることを知った。ヘクターの妻は妊娠中で、出産予定日が間近だという。そのためにヘクターは、もっと実入りのいい仕事を探していた。
銀行から5000ドルの融資を受けてまず1代目のスタンドを買う。うまいホットドッグを作って売る自身はあった。稼いで2台目を買う。…やがてこの街のホットドッグスタンドは50台みんなヘクター商会のものになる。ホットドッグのチェインストア。
だが、手持ちの資金ではまったく足りない。で銀行に融資を申し込みたいというのだ。けれども、申請書類の作り方もわからない。
ジャックは、ヘクターの事業計画を見込みのありそうなものとして銀行の申請書類に書いてやり、返済計画も立ててやった。だが、銀行は担保を求めるだろう。しかし、担保になるものがあれば、ヘクターは資金をすでに調達できたはずだ。
ジャックは、ヘクターに銀行業の冷酷さを教えた。無担保では融資は難しい、と。それでも、本人の説明に説得力があれば、全額は無理でも借り入れができるかもしれない、と。
その後、いろいろと手を尽くしたが、結局、銀行融資は受けられなかった。 「同じメクシコ移民系の高利貸しの男から借りる」とヘクターは言った。ジャックが招かれたパーティでのことだった。
ジャックは、移民社会での高利貸しと借り手の関係の厳しい現実を知っていた。だから、ヘクターのために「最後の株投機の勝負」に挑もうと決心した。