ジプシーは、自分に逆らって縄張りを荒らしたヴードゥーを殺し、「商売」の障害を取り除いたが、同時に裏取引の荷物の運び屋も失ってしまった。そこで、ヴードゥーの後釜を物色し始めた。やはり、クイックシルヴァーの若者で、新入りで金に困っている者を釣り上げようとした。
その仕掛けに引っかかったのがテリだった。
ジプシーは試しにテリに荷物を運ばせて高い料金を払った。テリは割りのよい条件に飛びついて、荷物の後ろ暗さについては関心を払わなかった。というよりも、お金がほしかったのだ。
そういうことが2、3度続いて、ジプシーはテリの「常連顧客」になった。
ところが、テリがジプシーの荷物の運び屋をしていることに気がついた先輩仲間たちは(とくにエアボーン)は、テリにジプシーの恐ろしさを教えて、今後、運び屋をするのは止めるように忠告した。だが、金のほしいテリは忠告を無視して、深みにはまりかけた。
高い料金に物を言わせてテリを罠に取り込んだジプシーは、やがて完全に彼女を支配・屈服させようとした。
ジプシーは、匿名で(荷物の受け渡しをするという口実で)人気のない街路に呼び出して、強引に車の中に乗せた。そして、あるパーティでのコンパニオン役を押し付けた。だが、その役柄とは、つまりは売春だった。
事情を察したテリは車から出ようとするが、ジプシーに力づくで抑え込まれた。テリはポケットからナイフを出してジプシーの太腿を刺し、彼が怯んだ隙に逃げ出すことができた。しかし、ジプシーは執拗に追いかける。
テリは深夜営業のカフェに飛び込んで逃げ道を探したが、別の出口はなく、袋小路だった。で、トイレのなかに隠れたが、この手の修羅場は手馴れているジプシーは、簡単にテリを見つけて店から拉致しようとした。
そこに、テリの危難を聞きつけた自転車仲間が駆けつけた。
カフェのなかで、クイックシルヴァーの面々とジプシーとが睨み合う形になった。だが、多勢に無勢。素手のジプシーは形勢の不利を覚って、テリを置いて退却した。
とはいえ、バイカーたちの優勢は一時的なものにすぎなかった。
車に戻ったジプシーは、いったん帰ったが、銃を用意すると――彼は銃の密売もやっているのでいくらでも銃を持っている――、クイックシルヴァーの仲間のたまり場にやって来た。
ジプシーが報復にやって来ることを、仲間は覚悟していた。そこで、さらに人数を集めて対抗しようとした。とはいえ、ジプシーは小物とはいえ歴としたギャングだ。正面から立ち向かっても、かなわないことはわかっていた。
そこで、彼らはとにかくテリを遠くに逃がして、物陰に隠れて立て籠もった。
そこにジプシーが殴り込んできた。彼は車で襲いかかり、自転車を破壊したり、若者たちを追い回したりした。結局、この乱闘のなかで、ジプシーは銃を発砲してエアボーンに怪我を負わせた。若者たちが警察を呼びそうな気配だったので、ジプシーは引き上げた。十分に威嚇できたと踏んだのだろう。