クイックシルヴァー 目次
自転車で再出発
原題と原作について
見どころ
あらすじ
自転車大好き!
ジャック・ケイシイ
ツキのない1日の始まり
挫 折 !
打ちのめされた父の姿
新たな生き方を求めて
仕事仲間たち
少女テリ
それでもジャックはジャック
ふとした疑問
自転車の曲乗り
勝負や賭けを避けるジャック
ヴードゥーの死
恋人との別れ
最後の株取引
テリとジプシー
ジャックとジプシーとの対決
再   会
株式市場という理不尽な世界
Office-Townwalkのサイト
信州まちあるき

新たな生き方を求めて

  それでも何とか気を取り直して、ジャックはニューヨークの中心街ダウンタウンをめざして歩き始めた。鞄は捨てた。冬が過ぎて日差しが強くなり、外は温かくなっていた。歩き出すには、洒落たスーツは邪魔だった。ジャックは、上着を脱いで手に抱え、ネクタイを取り外して投げ捨てた。
  やがて、ワイシャーツも脱ぎ捨てた。
  ダウンタウンの目抜き通りブールバールは、今日も人で溢れかえっていた。日が傾いて涼しくなった。アンダーウェアの上に直にジャケットを羽織ったジャックは、雑踏に揉まれながら、今後のことを考え続けた。

  悩むジャックが目を上げると、あるビルのショウウィンドウにスポーツ用の自転車が飾ってあるのが目に入った。そのとき、今朝の自転車便との競争のシーンが脳裏に蘇った。
  ジャックは自転車を買い入れた。場末街区のだだっ広い倉庫を借りて住まいとした(手持ちの現金は結構あったのだろう)。
  そして新たな仕事はニューヨークでの自転車配送便。「クイックシルヴァー」という商号で若者を集めて、ディリヴァリーの商売を営んでいる初老の男のもとで働くことになった。

  電話で市内での急ぎの配送を頼みたい客からの依頼を受けて、荷物の手渡し場所まで時短者の利の若者を派遣して荷物を受け取り、料金の前払いを受けてから、届け先まで預かった荷物を届けるという業務だ(あるいは届け先支払の場合もある)。言ってみれば、荷物配送の受託業務で受け取った配送料金を、初老の男(マニジャー)と若者たちが折半(歩合による分割)するというもの。
  要するに、若者たちは雇われているというよりも、半自営の配送業者で、荷主から荷物を受託したマニジャーからさらに受託して配送と集金をおこなうというシステムだ。

仕事仲間たち

  この仕事に必要なのは、自転車と個人どうしの信頼関係だ。あとは努力と顧客に対する誠実さだ。マニジャーが確保している顧客の仕事を割り振ってもらえるのだが、メッセンジャーはめいめいが独立の個人営業で、稼ぎを上げたかったら、ニーズがありそうなオフィスや企業に顔を出して、自己責任で顧客と仕事を確保するのだ。
  というわけで、元手(資本金)とかキャリア・学歴、技能などは必要ない。地名や住所氏名、会社名を読み取るだけの英語力があればいい。ジャックは自前の自転車を買い入れたが、自転車がない者は、この店というかグループが保有している自転車を安く買う(借りる)ことになる。
  そんな仕事だから、ニューヨークの階級社会のなかで底辺に位置する(移民とか貧しい黒人や白人、ヒスパニックなどのマイノリティの)若者たちが、とにかく大都市のなかで生き抜いて、やがて「もっとましな職業」に向かって歩む最初のステップ(一番低い階段)となっている。
  あるいは、かつてはキャリアや技術を誇りにしている職業についていたが、何かがあってスピンアウト(ドロップアウト)した者たちが、ニューヨークのダウンタウンのこの仕事に吹き寄せられてくる。

  この仕事では年長で、新入りたちに何くれとなく助言や手助けをするヘクターは言う。
「この仕事に就くヤツラは、ふとやってきてそのうち突然いなくなる。要するに、もっとましな仕事への通過点なのさ」と。
  ヘクター自身、メクシコからの移民らしい。妊娠している妻がいて、新たな誕生する家族のためにも、何とかもっと実入りのいい仕事に移りたいと願っている。
  ほかには、エンジニアとしてかなりいい腕と頭脳を持っている「エアボーン(空挺団)」という男もいる。教授と呼ばれる男もいる。
  アパッチ呼ばれる黒人青年。鋭い目つきが印象的な、正義感の強い好青年だ。

  だが、圧倒的な規模で人口も富も集積し、貧富の差が激しい世界都市ニューヨーク。その磁場は世界中から移民を引きつけ、また犯罪組織も引き寄せる。いや、都市の富と格差や貧困が犯罪や暴力を生み出す温床になる。
  自転車配送業をしていると、こういう犯罪組織が絡む後ろ暗い荷物の配達をすることもある。そういう危険な仕事はリスクが高いので、料金もめっぽう高い。そのため、自転車配送業の若者のなかには、高収入に誘われてそういう類の荷物の配送にのめり込んでいく者もいる。
  その典型が「ヴードゥー」と呼ばれる巨体の黒人青年。
  今は、このあたりの地回りのような役割を演じている小悪党「ジプシー」から、おそらくは麻薬とか銃などの運搬を専属のように請け負っている。

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