さて、警備部長に呼び出されたチャーリー。
警備部門の部屋では、部長がしかつめらしい顔をしていた。彼はおもむろにチャーリーに告げた。
「私たちは、君たち2人のカードゲイム中の画像を注意深く分析した。カードの圧かに関する不正はなかった。だが、もう仲間のもう1人は、あのゲイムで6組のカードの動きをすべて覚えていたことが判明した。このカジノではそういうゲイムの仕方はルールの想定外のことだ。
違反となる行為だ。だが、あからさまに非難するつもりはない。以後のゲイムはお断りして、丁重にお引取り願うことにする。明日の朝にはここを出ていただく。
さもないと、正規の告発手続きをとることにする」
というわけで、チャーリーとレイモンドの兄弟は、1晩限りでカジノを禁止されてしまった。
だが、翌朝、チャーリーはすごく気分がよかった。幸せだった。大金を得たこともだが、何しろ、天涯孤独と思っていた彼には兄ができたからだ。兄弟がいることが、こんなに嬉しいなんて、とでも思っていたに違いない。
チャーリーはホテルから出るときにレイモンドにビュイックを運転させた。ホテルの前のロータリーには、この砂漠の真ん中の町なのに噴水から大量の水が放出されている。噴水は空中で弾けて散って霧となる。そして、炎天下に涼しげな空間と雰囲気を生み出す。
そななかを、レイモンドが運転するビュイックがゆっくりと走っていく。穏やかにゆっくりと流れる時間。金儲けと成功を目指して走り回っていた、かつてのチャーリー。今は、レイモンドとスザンナとともに、穏やかに流れる豊かな時間を楽しんでいる。人との絆をつくる穏やかな時間。チャーリーは、今、自分が求めるものが変わったことを知った。
チャーリーは時間をかけてロスに戻った。スザンナを家に送ってから、チャーリーはレイモンドを自宅に連れていった。まもなくスザンナが加わることになるだろうが、兄弟2人が一緒に暮らす生活を夢見た。
ところが、チャーリーがレイモンドの保護権をどうするか深刻に考えなければならない事件が起きた。
レイモンドがキッチンで電子オーヴンのなかにお菓子の袋を入れてしまったことから煙が発生して火災警報器が鳴り出した。すると、彼はパニックに陥って取り乱し叫び声をあげた。チャーリーはキッチンに飛び込んで警報機を壊して警報を止めて、レイモンドを落ち着かせた。
やはり、レイモンドは専門家の組織立ったしかるべき保護を受けないと安全かつ心平穏に生活することができない。チャーリーは厳然たる事実を思い知った。レイモンドの幸福のためには、兄弟の絆とか愛情だけでは足りないのだ。ふさわしい施設や人員体制、組織やノウハウが不可欠なのだ、と。