レインマン 目次
遺産と兄弟の愛と
見どころ
あらすじ
4台のランボルギーニ
父親の死
兄のレイモンド
  チャーリーの不審
  兄弟の出会い
  自閉症?
チャーリーの計略
よそよそしい世界
  逃げ出したスザンナ
  高速交通への拒否
レイモンドの心と才能
兄弟の絆を取り戻す
レイモンドの冒険
カジノから日常生活へ
保護権の調停審問
レイモンドの心
「自閉症」と天才
誰もが自閉症の傾向をもっている
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炎のランナー
諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

「自閉症」と天才

  自閉症といわれる症状を示す精神的病理あるいは性向に含まれるものに、アスペルガー・シンドロウムがある。いわゆる言語能力とか、自己表現とか、「普通の世間」とのコミュニケイション能力では著しく劣るけれども、ある特殊な分野では天才的な能力を発揮するパースナリティをもたらす精神病理だという。
  この記事のオリジナル草稿を書いているとき――2010年頃――に、偶然、BBCのニュウズで、「ゲアリー・マッキノン事件」を報道していた。この1年間、ヨーロッパやアメリカのマスメディアでトピックスとして何度か取り上げられている事件だ。

  ゲアリー・マッキノンは、当時43歳のブリテン国籍の男性で、アスペルガー症候群という精神的病理にあったという。ところが、コンピュータ・ウェブシステムのハッキングに関しては、驚異的な天才を発揮して、合衆国のペンタゴンやNSAの情報システムに侵入して、データ取得など重大な損害や混乱をもたらした。
  彼は、自分の行為に関する責任能力や判断力は幼児並みでしかないが、「UFOフリーク」で、UFOの情報を得るために、どんなに堅固なファイアウォール(侵入防御体制)をも打ち破って、軍の情報システムに進入してしまったらしい。

  通常の刑事法でいう犯罪構成要件にあたる意思を持ってはいない。ただ、幼児のような好奇心、興味に惹かれて、どうにかして困難な障壁を突き崩してしまうらしい。
  もっとも、専門家によれば、彼のハッキングはごく単純な方法によるもので、侵入されたアメリカ軍の情報セキュリティシステムがあまりにお粗末だったからだという。それにしても、どういうセキュリティ装置がどのようにして無効化され、侵入を許したのかについては、防衛をめぐる国家機密とかで、説明されることはないのだが。
  問題は「国家の安全保障に対する侵害」をめぐる犯罪として通常の方法では処罰できないことだ。つまりマッキノンが精神障害者で、犯罪構成要件を欠いているいるからだ。刑法犯として裁き処罰するための条件としては、犯罪となる行為をしようとする本人の意思や意図がなければ、犯罪として罰することができないのだ。違法性としては、せいぜい軽い過失による損害を与えた行為だけだろう。


  だとしても、1つの目的意識に沿って努力を持続する能力はすごいと思う。いわゆる世間常識やがない分だけ、通常人なら抱くはずの諦めや挫折、失意などを感じることなく、時間の浪費を気にすることもなく集中力を持続して、アメリカ軍の情報システム内を渉猟して回ることができたのだと思う。
  だが、威信(自尊心)と権威の脅威に直面した――要するに面子を潰された――アメリカ国防総省は、このハッキング行為を訴追して、ゲアリーを容疑者と特定し、UK(ブリテン連合王国)政府に対して身柄引き渡しを求めている。まあ、大人気ない対応ではないか。

  中道左派の労働党ブレア政権はアメリカ政府の要求に応じて、マッキノンの身柄引き渡しのために裁判所に許可を求めたが、ブリテン国内に反対論が強くて手を焼き続けたという。
  これに対して、ブリテンの人権団体や市民運動組織は、ゲアリーのアメリカ政府への身柄引き渡しを回避するために、当時すでに3年間以上にわたって司法手続き上の「闘争」「駆け引き」を繰り返していたという。
  彼は精神的病理状態にあるので、人権保護団体や市民団体が、刑法上の責任能力がないからという訴追免責の訴えとか、マグナカルタ事件以来700年以上もの歴史がある「人身保護令」の援用とか、さまざまな手を尽くして、身柄の引渡しを阻止してきたらしい。

  ところで、ゲアリーは、アメリカ軍がUFOに関する情報を秘匿しているという、「トンデモ族」が信じている風評を信じて、軍の情報システムに入り込み、「家捜し」や「穴掘り」を繰り返したらしい。報道によれば、彼は結局ほしい情報は何一つ見つけられなかったと失望しているらしい。だが、自分が終身禁固刑(最大で70年)になるかもしれないという状況についての危機感は抱いていないようだ。
  彼自身の懸念は、アメリカ軍の情報システム内には「UFO情報」が記載されていないことであって、自分への訴追のことではないらしい。報道に登場するゲアリーの表情は、いずれも刑事被告人のそれとは異なるものだ。

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