大金を手にしたフッカーは、たちまち気が大きくなって警戒心を忘れてしまい、大盤振る舞いを始めた。
まず洋服屋で高価なスーツと帽子を買い込んで洒落のめし、高価なワインと花束を手に、大衆演劇でストリップ・ガールをしているガールフレンドを訪ね、デートに誘い出した。
フッカーは酒場で軽く飲んでから、ルーレット賭博に挑戦した。賭け金はなんと3千ドル(当時の相場を今に引き当てると、300万円くらいか)。そのルーレットにはイカサマ用の「仕掛け」がしてあり、フッカーは手もなく駆けに負けて、一瞬にして大金をすってしまった。
あまりに愚かな行為に彼女は怒って帰ってしまった。
ところが、騙りをはたらいたその日に、酒場の賭博場で大金を使うというような愚かな行為は、危険極まりないものだった。
そんなことを気にするでもなく、大金を一瞬で失ってしまったフッカーは、むなしい気分でルーサーの住居に向かった。
ルーサーのアパートに着くと、フッカーはルーサーとキッドに分け前を渡した。金を受け取ったルーサーは、危ない仕事から隠退して、弟の運送業に出資し、共同経営者になるという「健全な将来設計」を語った。
家路に着くため、フッカーがキッドとともにルーサーのアパートを出て、しばらく歩いたところで、警察車に乗った刑事のスナイダー警部に捕まり、昼間の騙り事件の容疑を突きつけられた。
だが、汚職警察官スナイダーのねらいは、2人の逮捕・起訴ではなかった。
スナイダーは、結構な額の金と引き換えに裏社会の有力者と癒着し、情報を流したり、メッセンジャーの役割を果たしたりしていた。
彼は、昼間、運び屋を引っかけた騙りの3人組の容貌の情報をつかんでいた。その情報から、かねて目をつけていたフッカー一味の仕業と察知していたのだ。
ただし、今回は3人をロネガンに売るのではなく、フッカーたちを脅して3人から目こぼし料金をせしめた方が得だと見極めていた。そこで、フッカーを殴って脅し、手に入れた分け前の半額以上を要求したのだ。
そしてスナイダーは、カモにした運び屋のボスが、冷酷な大物ボス、ドイル・ロネガンが牛耳る組織だと告げた。
仕方なくフッカーは、騙りで使った「偽札」2千500ドルをスナイダーが持ち去るように仕向けた。「大金」をせしめた悪徳刑事は、ホクホク顔で立ち去った。
危機をとりあえず脱したフッカーとキッド。
だが、賭博ネットワークやギャング筋からスナイダーに情報が流れているとすれば、賭博組織のボスも俺たちを狙ってくるだろう・・・だとすれば、ルーサーの身が危ない。
すぐさま、彼はルーサーに電話をしたが、ルーサーの家の電話にはだれも出なかった。ルーサー一家は敬虔なクリスチャンで、そのとき教会の礼拝に出かけていたのだ。ルーサーを除いて。
危難を察知して、フッカーとキッドの2人はルーサーのアパートに駆けつけた。
が、ときすでに遅く、ルーサーは組織の殺し屋に暴行されたあげく、部屋から路上に投げ落とされて殺されていた。
危険は、残された相棒、フッカーとキッドにも迫っていた。2人は、ルーサーの遺体を見捨てるように、ジョリエットから逃げ出すしかなかった。