さて、その日の昼近く、競馬賭博店の近くのカフェに、50万ドルを詰めたトランクを携えたロネガン一行が高級車で乗りつけた。彼らは店のなかに入って、電話を待った。
賭博サロンの奥の部屋では、J・J・シングルトンが、電信記録テイプのなかから、オッズと着順がきょうの仕掛けにピッタリのレイスを見繕っていた。
選び出したレイスの情報を、見張り部屋のキッド・トゥイストに連絡。トゥイストは、くだんのカフェに電話を入れた。
ロネガンがすぐに受話器を取って伝言を聞き取ると、伝言の繰り返し確認(復唱)をしないまま、大金が詰まったトランクをもってゴンドーフの店に出かけた。
きょうの伝言は、しかし、勝気でせっかちなロネガンを引っかけるように、回りくどい言い方にしてあった。ロネガンは勝負を急くあまり、その罠に気づかなかった。
店の馬券売り場窓口に立つと、ロネガンはある馬に50万ドルを賭けた。窓口係は、あまりの巨額に度肝を抜かれ、ゴンドーフに相談に行った。賭けを受けてもいいかと。
ロネガンは、躊躇するゴンドーフを挑発して賭けを飲ませた。
その直後、レイスの実況放送が始まった。全馬出走、混戦模様だ。
そのとき、電信局の所長の役を演ずるトゥイストが心配顔でロネガンに近づいてきた。そして、ロネガンに尋ねた。
「大丈夫だろうね」
ロネガンは自信たっぷりに応えた。「あの馬の優勝に50万そっくり賭けたよ」
「ばかな。あの馬は2着で、連番で賭けろと言ったじゃないか」
トゥイストは、ロネガンへの伝言をわざと回りくどくして、聞き違いを誘ったのだ。
ロネガンは慌てて、窓口に駆け寄り、キャンセルを申し出たが、もう手遅れのようだった。
言い合いが始まろうとしたのその刹那、入り口のドアを押しのけてFBIの捜査陣が乗り込んできた。スナイダーも後に続いた。
捜査官ポークは、ゴンドーフに「今度は現行犯だ。年貢のおさめどきだな、ゴンドーフ」と詰め寄った。
そして、ポークはフッカーの方に顔を向けて、「よくやった。お前は行ってもいい」と告げた。
フッカーが裏切り者=内通者だと知ったゴンドーフは、ベルトから拳銃を取り出し、フッカーを撃った。だが、次の瞬間、ポークの撃った銃弾がゴンドーフを撃ち倒した。
フッカーとゴンドーフはともに即死だった。
ポーク捜査官はスナイダーに、ロネガンを早く連れ出せと命じた。
ロネガンは突発的な成り行きにすっかり飲まれていたが、ゴンドーフの店(地階)から路上に出たところで、「俺の50万ドルはどうなる? あそこにあるんだ! 取り戻さないと」と叫んだ。
だが、スナイダーは「そんな場合か、早くここから消えるんだ」とロネガンを引っ張っていった。
店のなかでは、しばらくして、「もう大丈夫だ」という声。
むっくりとゴンドーフは身体を起こして、笑顔でフッカーの方を見た。フッカーも身体を起こして、顔の血糊を拭き取り、にやりと笑った。
ゴンドーフはポーク捜査官役に向かって、まるで本物のFBIかと思ったよ、と迫真の演技を讃えた。そして、言った。
「さあ、みんな、急いで片づけだ」
巨額をせしめた仲間たちは、足取りも軽く、笑顔で片付けを始めた。みんな、大金の分け前が待っている。
だが、フッカーは分け前は要らないと言った。この騙りを達成したことが、最大の収穫だ、というのだ。
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