スティング 目次
原題と翻案原作
見どころ
あらすじ
踏んだのは「虎の尾」
ことのいきさつ
ルーサーの死
ゴンドーフと仲間たち
作戦構想を練る
ドイル・ロネガン
まずポーカーで引っかける
ロケとキャスト
撒き餌
駆け引き
疑似餌
フッカーの窮地
寄り添う殺し屋
はじけるカラクリ
大団円

作戦構想を練る

  ゴンドーフがロネガンを引っかけるために考えた今回のコンセプトは、「電信競馬賭博」。
  電信競馬賭博がはやったのは、1910〜20年代だという。これは、大陸国家アメリカならではの賭博で、東海岸と西海岸との距離(3千q以上)と時差(2時間)を利用したギャンブルだ。
  たとえば、西海岸でおこなわれたレイス結果ないし経過は、当時一番早いコミュニケイション手段だった電信を使っても、東部に届くまで2時間の時間差が生まれる。
  競走の情報の編集や通信準備に要する時間を差し引いても、小1時間近くの差が生じる。その分だけ、東部地域では馬券購入の受付時間を延ばすことができる。
  賭博業者としては、収益を膨らませるために1ドルでも多く受けつけたいからだ。

  賭けの胴元は、電信で送られてくるレイス結果ないし実況から、賭率(オッズ)や人気度合いで、売り出すレイスを選別できる。ハイリスク=ハイリターンのオッズで勝負するか、ロウリスク=ロウリターンで行くか、選択することができる。
  「大穴狙い」を英語で《long shot:長距離射撃》という。つまり、めったに当たらないからだ。

  もちろん、競馬サロンで放送する「実況」は、架空のものではなく、実際におこなわれたレイスのものだ。
  西海岸のラディオ実況番組を配信サーヴィスで買い取ってサロンで放送するようになっていたらしい。競馬予想の新聞も西海岸から取り寄せて販売していたようだ。
  20世紀初頭のアメリカでは、すでにこのような迅速な情報配信ネットーワーク・サーヴィスを大陸的規模で編成していたのだ。
  そうなると、もちろん大きな準備金が必要だ。

  だが、もし電信会社の中継局(受信局)にいち早くアクセスすることができれば、賭博サロンで売り出されるレイスの結果、すなわち勝ち馬(着順連番の組)を知り、それに賭けて大もうけすることができる。つまり、競馬賭博の詐欺で大もうけできるわけだ。
  この仕掛けにうまくロネガンをはめ込み、大金を巻き上げようというわけだ。

  この「濡れ手に粟」のもうけ話にロネガンを乗せて、巨額の金を騙し取る作戦だ。しかも、有力ギャング団のボスを相手にするのだから、事後の身の安全をはからなければならない。
  そのためには、だまされたことを後々まで気づかないような仕掛け、結末=状況設定を演出しなければならない。
  しかも、ジョニー・フッカーはロネガンの殺し屋と悪徳刑事の双方から狙われているから、その切り抜け策も同時に手配しなければならない。

ドイル・ロネガン

  アイアランド系のギャング組織のボス、ドイル・ロネガンは、執拗で残虐な戦い方でのし上がってきた。今では大がかりな賭博組織を経営し、一方で金融業にも手を出していた。
  最近では、ニューヨークとシカゴのあいだを列車に乗って定期的に往復していた。賭博業の経営状況を財務的に管理するために、銀行業の本拠のニューヨークからシカゴに出かけて、帳簿などの財務資料をチェックするためだ。
  そのさい、身辺警護も兼ねて2人の側近を連れていた。

  この列車旅行のさい、いつも、ロネガンは特別のコンパートメントでポーカー賭博をやっていた。
  ゲイムの表向きの胴元は列車の主任車掌で、客はこの列車にやはり定期的に乗り合わせる乗客で、銀行家や企業家などの金持ちたちだ。
  だが事実上は、車掌は多額の報酬でロネガンに操られているようだ。ポーカーゲイムでロネガンの恰好のカモになりそうなお人よしの金持ちを物色して、ゲイムに誘い込む役割を演じていた。

  このゲイムでロネガンは負け越したことがなかった。ロネガンは偏執的な負けず嫌いで、強い相手には「イカサマ」を駆使しても必ず勝利を手にした。
  つまりは、ポーカーでがっちり稼ぐわけで、負けず嫌いの性癖は、勝ちたいという欲望だけでなく、他人に賭け金を攫われたくないという心理から出たものかもしれない。

  そしてこれまで、ロネガンはひたすら富と権力を追い求める競争に努め、潔癖なまでに酒や女には見向きもしなかった。そして、時間に正確で、無駄な時間を過ごすのを好まなかった。
  見かけ上は、一部の隙もない高級な仕立てのスーツを着こなし、紳士的で鷹揚な富豪として振る舞っていた。

  ゴンドーフたちは、仲間の情報網をつうじて調べ上げたロネガンの性癖や行動スタイルをとことん利用して、エサに食いつかせ罠にかけるつもりだった。

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