ジョニー・フッカーは、生前ルーサーが口にした「偉大な詐欺師」、ヘンリー・ゴンドーフを訪ねることにした。
理由の1つは、ルーサーのアドヴァイスだった。詐欺師としての腕を上げるためには、ヘンリー・ゴンドーフのような一流の師匠のもとで修業を積め、と言われたのだ。
もう1つは、ルーサーの敵打ちをしようと考えたからだ。
ゴンドーフは今、シカゴの売春宿に身を潜めていた。追いつめられて飲んだくれていた。
いまでもゴンドーフが華々しく活躍していると思っていたフッカーは、そんなところにくすぶって、酒に溺れているゴンドーフを見て落胆した。で、「だらしがない」と問い詰めて、ゴンドーフの現状を聞き出した。
ゴンドーフによれば、いま身を潜めている理由は、先頃、連邦上院議員をハメて株式詐欺をはたらいたことがバレてしまい、連邦犯罪としてFBIに追われるハメになったことだという。
そんなわけで落ち込んでいるゴンドーフにフッカーは迫った。
ルーサーの復讐のためにロネガンを相手に「一仕事」したい。そのためにいっしょに組んでほしい――というよりも、この仕事をつうじて、大がかりな「騙しの技」を教えてほしい、とねじ込んだ。
フッカーの熱意に動かされて、ゴンドーフは錆びつきかけていた「イカサマ師」の本能が目覚め、「復活戦」への挑戦を決意した。
大がかりな詐欺を常習とするゴンドーフには、いわば「常連の仲間」がいた。彼らはまた、ゴンドーフの作戦本部を担う幕僚=参謀たちだった。このティームが、シナリオを書き、仕掛けとカラクリを設計するのだ。筋書きと仕掛けには、キャスティングと演出、演技指導も含まれる。
その1人目が、J・J・シングルトン。何をやっても器用にこなす参謀。
2人目が、キッド・トゥイスト。外見は、金持ちの紳士。実際にも金持ちで、ゴンドーフの仕事への出資者でもあるようだ。幕僚長格か。
3人目がエディ・ナイルズで、几帳面で温厚な銀行家を装っている。現に今回も、ゴンドーフの誘いがかかるまで、銀行員をしていた。
4人目として忘れてならないのが、ゴンドーフがしけ込んでいた売春宿の女性経営者にして、パートナーのビリー。
常連の5人目は、この記事の最後の局面まで伏せておく。ここで紹介すれば、ネタ落ちになってしまうから。
やはりアングロサクソン社会、大がかりなコンゲイムのためには、必要な規模でコンソーシアム(共同企業体:consortium)を組織し、参謀たちが審査員となって、スタッフをオーディションで選抜することになった。
さて、ゴンドーフの構想では、サロンの場所はシカゴのダウンタウン。
キッド・トゥイストは、店舗を貸す大家には要求どおりの家賃を払って早々に追い払った。
舞台装置、小道具などは、顔なじみの斡旋業者(その男も常連仲間に準じる立場にあるようだ)に手配させた。
そのさい、この斡旋業者は、相手がロネガンと知ると、利幅の大きい「利益割り前方式」はあきらめて「定額前払い」方式の料金決済に決めた。今度ばかりは「ローリスク・ローリターン」でいくことにしたのだ。
つまり、失敗したらえらいことになる大物をカモにする今回の作戦のリスクに恐れをなし、「利回りの大きい先行投資」を諦めて、早々とリスクヘッジを決め込んだわけだ。
代金の取りはぐれを回避し、ゴンドーフとの取引をここで完結させておきたいというわけだ。
というのは、今回の作戦では、単に相手を騙して金を奪うだけでは成功ではないからだ。騙られたことを、その後もずっと覚られないようにしなければならない。
敗北や失敗を決して受け入れない執拗なロネガンならば、嵌められたと知ったら詐欺師たちを皆殺しにしようと、殺し屋集団を雇って地球の果てまで追いかけさせるだろうからだ。