ゴンドーフとフッカーは、シカゴに向かうロネガンが乗る列車に金持ちの事業家とその助手という格好で乗り込んだ。
ゴンドーフは、シカゴのダウンタウン(中心街)で競馬賭博サロン(booker)を経営し荒稼ぎしているショーという人物。フッカーはその助手、ケリーという若者に扮していた。
列車内でゴンドーフは、改札に訪れたくだんの車掌に巧みに金を握らせて、ポーカーゲイム招待客のメンバーに入れさせた。
そして、ビリーを使って、列車内の通路ですれ違いざまロネガンの懐中から財布を掏り取らせた。財布には1万5千ドルの大金が入っていた。
ゴンドーフは、ポーカーゲイムが始まる時刻をかなり過ぎてから会場に現れ、しかも、泥酔一歩手前の状態を装っていた。きわめて無礼な「酔っ払い」の振りをして、酒嫌いのロネガンの神経を逆なでするためだった。
酒臭くて無礼な態度を演じるショー=ゴンドーフは、賭け金をレイズしながら、巧みなカードさばきで、ロネガン以外のメンバーをゲイムから追い落としていった。
2人の対決はいよいよ熱を帯び、賭ける金額はどんどん吊り上げられていった。賭けを降りたほかのメンバーは、固唾を呑んで2人の勝負の行方を見守った。
すでに5千ドル負けているロネガンは、得意の奥の手=イカサマを繰り出して最後の勝負に出ることにした。
賭け金は1万ドル。そして、ロネガンはこっそりカードを細工済みカードに取り換えた。だが、イカサマの手腕ではショー=ゴンドーフの方が数段上手だった。ロネガンは完全に叩きのめされてしまった。
ゲイムの精算の段になると、ロネガンは財布がなくなっているのに気がついた。1万5千ドルの賭け金が払えなくなった。ロネガンは大恥をかくことになった。
結局、あとでロネガンが自分のコンパートメントに戻ってから、ゴンドーフの使いの若者(ケリー=フッカー)に金を渡すことになった。
この使いの若者、ケリーは野心満々で、ゴンドーフの商売をそっくり横取りする計略を抱いて、ロネガンに近づくことになっていた。
つまり、ショー追い落としのためにロネガンと手を組む手はずになっていた。
若者はロネガンの客室に入ると、ゴンドーフがロネガンの財布を掏り取らせたうえで、イカサマを駆使してポーカー勝負に勝ち、賭け金を巻き上げて、ロネガンの顔をつぶす算段だったことを打ち明けた。
そして、ゴンドーフへの仕返しに躍起になっているロネガンに、乗っ取り計画のスポンサーになるよう提案した。
ゴンドーフへの報復を欲するロネガンは、フッカーの提案に乗り気になった。
フッカーはロネガンに、試しに一度店に来て賭けをしてみるように勧めた。大きな魚が釣餌に飛びついてきそうだった。
一方、シカゴの電信競馬賭博の「店舗」では、大がかりな偽装の準備工作が進んでいた。オッズや出走場一覧が書かれる掲示板(黒板)が設置され、テイブルと椅子、馬券売り場が整えられた。
キッド・トゥイストは、店の雰囲気を盛り上げる「常連客」を募集し、オーディションで選んでいた。つまりは「芝居」の役者の選考で、映画や舞台劇の役者の募集・採用のシステムと同じようなものだ。
「イングランドのジェントルマン」を演じたら右に出るものなし、という初老の男が採用された。
フッカーの相棒だったエリー・キッドも選ばれた。彼は、前の夜、詰め寄る刑事スナイダーをからかって痛めつけられ、鼻に怪我をしていた。
弱いものいじめの悪徳警官に対して一歩も退かずに渡り合ったエリーの意気と度胸を、トゥイストは高く買ったのだ。