先日のオールド・ベイリーの爆破に続いて、今度はBTNの放送番組がジャックされるという事件が起きてしまった。このことは、レジームに反抗するいかなる個人や組織運動をも許さないという当局・警察権力の綻び(能力の限界)を明白に示すことになった。つまりはレジーム=ノースファイアー政権の権威の失墜の兆しを意味する。
とすれば、当局はこの出来事をありのまま「未解決事件」として公表することはできない。しかし、BTNの公共放送の番組内容そのものがVのメッセイジに置き換えられてしまった以上、事件はほとんどの民衆によって知られてしまっていることになる。
そこで、捏造した報道をおこなうことになった。
「放送管制室を乗っ取ったVは、突入した警官隊によって射殺された。これによって、Vの一連の事件は解決した」というニュウズが流された。しかし、多くの市民たちは、「また当局が虚偽の宣伝報道を流している。ばかばかしい!」という反応を示した。
目覚めたイーヴィは、Vの隠れ家のなかを歩き回った。そこは、かなり年代を経た建物の室内のようだった。部屋には美術品や骨董、貴重な文物がいくつも置かれていた。ジュークボックスもあった。
ふとイーヴィは背後に気配を感じて振り返ると、Vがいた。すばらしい所蔵品の出所を尋ねると、Vはブリティッシュ・ミュージアムなど公の博物館や美術館から盗み出したと答えた。イーヴィは、公然と権力や秩序に挑戦し闘いを挑むVの姿勢にむしろ驚いた。そして恐れを抱いた。
恐れはいくぶん反感を含んでいたようだ。イーヴィは非難気味に、なぜ自分がここに連れてこられたのか問うた。Vの答えは、「あの場に君を残せば、当局の捕縛され、私との関係を尋問され拷問され、あげくに虐殺されるだろうから、ここに連れてくるしかなかった」というものだった。
しかしイーヴィは、これで完全に自分が権力の敵対者の側に立たされてしまったと感情的に非難した。そのまま感情が高ぶって、彼女は寝室に閉じこもってしまった。そのまま眠ってしまった。
朝が来て、イーヴィはふと眠りから覚めた。金属が衝突し合うような鋭い音の響きで目覚めたのだ。そと寝室を出てみると、Vは騎士の甲冑を相手にフェンシングをしていた。テレヴィモニターで古い映画を観ながら。「モンテクリスト伯」だった。Vのお気に入りの映画作品だという。
イーヴィに気づいたVは、ベイクンエッグを乗せたトーストを調理してくれた。空腹だったイーヴィは、トーストにかぶりついた。
そのあとイーヴィは、Vとともに「モンテクリスト伯」を観た。イーヴィは「メルセデス(モンテクリスト伯の婚約者だったが、モンテクリストが冤罪で投獄されているあいだに彼の敵の妻にされしまう)が可哀そう。モンテクリストは、彼女よりも自分の復讐を優先するんですもの」と感想を述べた。
話題は、昨日の番組ジャックのメッセイジになった。
イーヴィは尋ねた。 「なぜウェストミンスター議事堂を爆破するの。破壊がなにか意味を持つのかしら」
Vは答えた。 「たしかに議事堂の爆破そのものはシンボルにすぎない。けれども、ノースファイアー政権が支配のために民衆に虚偽の情報を流布・横溢させ、秩序や権威を誇示し押しつけるためにシンボルの操作をおこなっている。人びとを畏怖させ、レジームへの従順・服従を強要するために。
だとすれば、民衆を恐怖による束縛から解放し、異議申し立てを勇気を与えるためには、シンボルが必要になるんだよ。民衆を恐怖に縛りつけている権威の象徴を破壊するというシンボルには、決定的な意味があるんだ」
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