さて、Vが民衆に抵抗と結集を呼びかけた「ガイ・フォークス・デイ」が近づいてきた。
ノースファイアーは、強気を装う半面、深刻な危機感、焦燥感をつのらせていた。夜になると、当局は以前から、窓や壁の振動から屋内での会話を盗聴する特殊車両を街頭に走らせていた。市民のプライヴァシーや自由な討論をとことん切り縮めようとしていたが、その台数も増大した。ロンドン市内を走る地下鉄網は、もう長い期間、閉鎖されていた。
政権側の危機感は相当なものである。ノースファイアーの指導層のなかでは、ライヴァルの粗探しや蹴落とし合いが目立つようになった。とりわけ、サトラーとクリ―ディとの反目は火花を散らすようになった。
サトラーは、フィンチ警部をV捕縛作戦の指揮者から外して、秘密情報部を取り仕切るクリ―ディに担当させた。それは、フィンチが、ノースファイアーの闇=秘密を知りすぎたからでもあったが、クリ―ディを矢面に立ててV追跡捕縛の失態を演じさせ、失脚をはかろうとういう思惑だった。
一方、クリ―ディとしては、指揮下の組織を駆使してサトラーの弱点を暴こうとしていた。
その頃、Vは民衆を鼓舞して異議申し立てのデモンストレイションに立ちあがらせ、ノースファイアーを追い詰めるための作戦を展開していた。
1つ目は、反乱の象徴としての「ガイ・フォークス」の仮面とマント(Vがしている仮面とマント)を大量に(何十万個)生産して、ロンドン中の住居に発送し、市民の間に普及させることだった。多くの家庭にVの仮面が届けられた。子どもたちは、遊び半分に仮面をかぶって遊ぶようになった。もちろん、当局は、厳格に、子どもでも情け容赦なく取り締まった。
これは、来たるべき「ガイ・フォークス記念日」に備えるものでもあった。その日に、多数の民衆がVの姿を模倣して結集したり、街頭行進するようになればいいという見込みもあった。
2つ目は、党内で隠微に権力闘争を繰り広げているサトラーとクリ―ディのあいだに楔を打ち込んで、反目を増幅させて決定的な対立・分裂に追い込もうというものだった。
Vは、クリ―ディの目の前に現れて、「サトラーを捕えて殺せば、私の身を差し出そう」と提案した。サトラーを追い落として、自ら党首の座におさまり権力を駆使しようともくろむクリ―ディは同意した。
ところで、フィンチ警視は、依然としてVを追いかけていた。刑事警察による捕縛でVの命を守ろうという腹だった。ノースファイアーの謀略を刑事犯罪として暴こうとしているのかもしれなかった。