V フォー ヴェンデッタ 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
社会状況の設定について
暴力組織になった警察
ガイ・フォークス
イーヴィとV
オールドベイリーの爆破
当局の宣伝報道
後手に回る独裁政権
番組ジャック
当局の情報操作
Vの隠れ家
熾烈な復讐戦
イーヴィの生い立ち
司教の殺害
死を待つ女性検視官
暴かれた真相 Vの誕生
ノースファイアーの謀略
イーヴィの試練
ゴードンの勇気
イーヴィの苦難
「ガイ・フォークス記念日」
Vの撹乱作戦

イーヴィの苦難

サトラー風刺番組放送への反動は直ちにやってきた。秘密情報局系の武装警察隊がゴードンの住居を急襲して、乱暴にゴードンを引き立ていった。イーヴィは、ベッドの下に隠れてそのときは難を逃れた。
  だが、警官隊が家探しを始める気配を察して、イーヴィは窓から屋外に逃れ出た。
  そのとき、イーヴィは黒布で目隠しされたまま拉致されてしまった。イーヴィは秘密情報局に捕まってしまったのだと思いすっかり怯えてしまった。
  イーヴィが気がつくと、収容所の監房らしいところに閉じ込められ、尋問官のような男にVに関する情報提供を求められた。「命を助けてほしいなら、Vの逮捕につながる情報を供述しろ。隠れ家を教えろ」と。   ところが、それはVによる芝居だった。
  イーヴィは、Vのもとを去る前に「当局の抑圧や暴力が怖い。これまで、ずっと当局の目を怖れて隠れるように生きてきた。当局の権威に逆らうような勇気はない。だから勇気がほしい」と言い残してきた。Vは、そこでイーヴィを極限状態に追い詰めて、恐怖心を抑える勇気をもつ試練を与えようとしたのだ。
  とはいえ、イーヴィが恐怖心に挫けるなら、そのときは仕方がない、芝居をやめて解き放とうと考えていた。

  だが、Vの芝居は辛辣だった。
  イーヴィは囚人服に着替えさせられ、頭髪を丸刈りにされてしまった。あたかも、ナチスのユダヤ人強制収容所でのように。そして、毎日、厳しい尋問を受けた。拷問はなかったが、ひどい精神的圧迫を受けた。日を追うごとにイーヴィは追い詰められ、消耗していった。
  ところがある日、監房の片隅のネズミの巣穴から、この監房に以前収容されていた女性の手記を見つけた。レズビアンの科で収容され迫害された女優、ヴァレリーが、密かにロールティシュに記した手記だった。
  その手記は、ヴァレリーが、追い詰められた自分の感情や心理を記録することで自己抑制心を振り絞り、かろうじて自分の精神のバランスを保つために書いたものだった。

  手記のはじめの部分では、女性は怯え切っていたようだ。毎に続く尋問。死の恐怖。だが、やがて自分の死が避けられないものと覚悟を決めたとき、自分らしさ(自己の尊厳)を保って死に直面しようという意思を持った。自分らしさを守るために、従容として死を受け入れようと。
  ノースファイアーが望むことは、秘密情報機関や警察権力を駆使して人びとを恐怖の淵に陥れて、当局に反抗したり批判する勇気を押し潰すことだった。収容所もまた、そのための装置だった。収容者たちが恐怖に蝕まれ、自分らしさを見失いながら死んでいくように仕向け、彼らが当局に取りすがり慈悲を求め、それまでの自分の信念や思想を捨て去ることを求めていた。
  そうであってみれば、そういう邪な当局の意図を拒否し、自分らしさ(尊厳)を失わずに死に直面しようとする態度こそ、ノースファイアーが恐れ、忌み嫌うことだった。
  ヴァレリーは、強い精神力・意思の持ち主だったのだろう。当局の狙いを拒否して死に赴いた。おそらくは、あの病原ヴィールスの被験者となって。
  収容所は芝居にすぎなかったが、ヴァレリーの手記は本物だった。ラークヒル収容所でVの隣の監房にいた女性だった。

  イーヴィも自分の精神のバランスを守るために、毎日貪るように、ヴァレリーの手記を読み進めていった。そうして、イーヴィもヴァレリーの心理の変化を追体験していった。少しずつ自分を取り戻し、覚悟を決めていく過程を。やがて、イーヴィも、尋問官の要求を拒否して自分らしさを貫く覚悟を決めた。
  そういう境地に立つと、自分を苛み苦しめる者どもの正体を見定めようという気持ちになった。それまでは、独房の片隅にうずくまって震えていたが、いまや扉に近づき、外の気配を窺うようになった。すると、扉には施錠してなかった。そもそも施錠の仕組みがなかった。
  イーヴィは扉を開けて廊下に出てみた。そこにはいつも監視係の看守が立っていた(と思って怯えていたが)、その看守は人形だった。

  イーヴィは訝しみながら、監房を出た。すると、そこはVの隠れ家だった。Vが待っていた。すべては、Vの演出だったのだ。 「なぜ、こんなひどいことをしたの?」とイーヴィは問い詰めた。 「申し訳なかった。だが、君が当局を恐れる気持ちを克服して勇気を持ちたい、と望んでいたからだ。何度ももうやめようと思ったのだが…。君はついに尋問に答えようとしなかった。屈しなかった。自分を見失わなかった。自ら尊厳を守り切った。立派な勇気だ」とVは答えた。
  イーヴィに対する残酷な試練だった。が、彼女のような境遇の若い女性が、今のレジーム下で生き抜いていくためには、必要な体験=訓練だったのかもしれない。
  イーヴィは今の自分の心境を慮ってみて、納得したようだ。 「そうね、私は恐怖を抑える勇気を得たわ。だから、ここから出ていって、独りで自分の生きていく場所を捜し出すわ」と言って出ていった。そのさい、11月4日の深夜(11月5日の午前0時までに)議事堂行きの路線がある地下鉄駅でVと再会する約束をした。

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