V フォー ヴェンデッタ 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
社会状況の設定について
暴力組織になった警察
ガイ・フォークス
イーヴィとV
オールドベイリーの爆破
当局の宣伝報道
後手に回る独裁政権
番組ジャック
当局の情報操作
Vの隠れ家
熾烈な復讐戦
イーヴィの生い立ち
司教の殺害
死を待つ女性検視官
暴かれた真相 Vの誕生
ノースファイアーの謀略
イーヴィの試練
ゴードンの勇気
イーヴィの苦難
「ガイ・フォークス記念日」
Vの撹乱作戦
 

熾烈な復讐戦

民衆にレジームへの抵抗を呼びかける一方で、Vは自らの復讐戦を開始した。

  BTNには当局の代弁者であるルイス・プロテーロが「ロンドンの声( Voice of London )」という役割を演じていて、放送局の最高権力者となっていた。彼は、ニュウズ解説はもとより、あらゆる機会をとらえて、ノースファイアーのプロパガンダをしていた。すなわち、民衆にはレジームへの服従を求め、海外諸国、とりわけブリテン帝国時代の植民地だったアメリカなどの諸国を劣等民族扱いし、おりあらば「イングランドの優越」を喧伝している。
  たとえば、先頃の世界戦争の主戦場となり核汚染されたアメリカ合衆国(BTNの報道によれば、戦争による荒廃で先進工業国から脱落し農業国となったらしい)なんぞは、ブリテンの援助にすがってようやく生き延びている国民である、と決めつけられている。
  そして、ブリテン王国のなかでも民族的優劣があって、とにかくイングランドが最優位にあるべき――イングランドがスコットランドやアイアランド、ウェイルズを指導すべき――だ、ということらしい。
  そういう当局の情報操作の先頭に立つ「旗振り役イデオローク」がルイス・プロテーロなのだ。

  その男が、その夜、BTNビルのVIPルームに侵入したVによって殺害された。死体には、かつてバイオテクノロジーで開発されたものの今では絶滅してしまった赤いバラが添えられていた。
  殺害にさいしてVは「復讐だ!」と宣言した。
  ルイスはBTNのCEOになる前に、武装警察隊の幹部でラークヒル強制収容所の所長をしていた。そのことが、Vの復讐と結びついているらしい。つまり、Vはかつてレジームへの反逆者として収容所に隔離されていたようだ。それが、ノースファイアーへの執拗な反逆に挑む怪人Vの誕生の原因となったらしい。

  フィンチ警視はルイス・プロテーロ殺害事件の捜査を始めた。すると、ルイスがBTNの首脳=「ロンドンの声」になる前は軍人で、イラクやアフガニスタン、クルディスタンなどの戦地を転戦した経歴が判明した。そこで、狂信的な反テロリズム思想に駆られて民衆の弾圧や虐殺をおこなってきたことも。そして、BTNの首脳になる直前までは、ラークヒル収容所の所長をしていたことを。
  そして、収容所での業績がサトラーに評価されてノースファイアーの幹部に抜擢されたこと、その収容所での彼の動きが絡んで起きた事件が、Vの復讐の原因となっていることをつかんだ。
  では、いったいラークヒル収容所で何が起きたのか。あれほど執拗なVの反撃と復讐を動機づけるほどの事件が、収容所で起きたのだ。何が起きたのか。

  事件を解明するために、フィンチは、Vのプロテーロ殺害の動機、そしてプロテーロとVとの関係を調べることになった。ところが、現行のレジームでは、プロテーロの経歴とラークヒル収容所でのできごとは、スコットランドヤードの幹部でも知ることができない機密事項となっていた。レジームの安全保障にかかわり、政権の基盤を掘り崩すかもしれない事実関係ということだ。
  腹の底ではノースファイアーに幻滅しているフィンチは、犯罪捜査官としての本能・嗅覚に導かれて、ラークヒル収容所で起きた事件を追い続けようとした。
  しかし、ノースファイアーによる政権掌握ののちに展開された「思想改造革命=教化( Reclamation )」によって、当局に都合の悪い情報はほとんど闇に葬られることになったため、ラークヒル収容所の運営をめぐる情報はすっかり抹消されていた。過去の政府関連の情報を完全に電子化するという名目で、政権に都合の悪い項目がすっかり消去されたのだ。
  ところが、フィンチは、税務(財政)当局に保管されている原簿(現物アナログ帳簿)のなかにラークヒル収容所の財政記録が残されていることを突き止めた。

イーヴィの生い立ち

ところで、Vの隠れ家でイーヴィは、Vの意図を聞き出そうとしていた。Vと出会った夜のことを。
  フィンガーマンの毒牙からイーヴィを救出したのは、Vがイーヴィと家族のことを知っていたからではないかと。だから、イーヴィを見守っていたのではないかと。
  イーヴィは幼い頃から5年間、少年矯正施設に隔離されていた。理由は、レジームに反逆する両親の影響下にあった子どもだったから、というものだ。

  幼い頃、ロンドンの給水施設の貯水池にバイオテロリストによって強毒性の病原ヴィールスが投げ込まれたために、住民の多くが疫病に感染するという事件(セイント・メアリー事件)が起きた。イーヴィの弟も疫病で死亡してしまった。その事件ののち、両親は急に政治的になり、事件の背景を調査しメディアに発表し続けた。
  ところが、その事件をきっかけに保守党右派が秩序の維持と安全を歌い言葉にして総選挙で圧勝し、やがてサトラー率いるノースファイアーが政権を握ることになった。「安全と秩序」をスローガンにして、ノースファイアーは市民民衆の言論や政治行動の自由を大幅に制限していった。そして、ついに全体主義政治がやって来た。

  イーヴィの両親は、給水施設のバイオテロ事件は、サトラーらの右翼強硬派が、政権を握るために計画した事件=テロではなかったかという疑いを抱き、調査するうちにその証拠をつかむことになったのだ。それゆえ、両親は政権に対する抗議行動や抵抗運動に身を投じた。そのてめに、当局から弾圧を受けることになった。
  結局、イーヴィの両親は逮捕され、ラークヒル収容所に収監されることになった。やがて、父親はコウギノハンガーストライクで死亡し、母親も謎の死を遂げた。孤児になったイーヴィは矯正施設に収容された。
  こうして、イーヴィは、ノースファイアー政権の抑圧・弾圧の恐ろしさを身にしみて体験して育った。そのため、政権の凶暴さに対して強い警戒感と恐怖を抱いている。だから、政治にはかかわらない、政権=警察の注意を引かないように生活する、という信条を貫いてきた。Vとは正反対の生き方を。

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