ある日、イーヴィがVの隠れ家の掃除をしていると、鏡に「V」の由来を物語るようなラテン語の文章が書かれているのを発見した。《Vi Veri Vniversum Vivus Vivi》――生あるうちに、真実によって世界をわがものとしよう。これは『ファウスト』のなかにある言葉だ。
これについてVと語り合ううちに、Vの反逆に手を貸してみようと思いついた。そこで、Vの次の標的に近づき暗殺のお膳立てをすることになった。しかし、その手伝いは、二重の意味でイーヴィを苦しめるものとなった。
Vの次の標的は、イングランド教会司教のリリマンだった。リリマンもまた元軍所属の司祭で、長い間ルイス・プロテーロの副官をしてきた男だった。ラークヒル収容所でも、収容所つき司祭としてプロテーロの副官を務めていた。
リリマンも、残酷な軍人としての実績を買われてノースファイアー政権から抜擢され、イングランド教会の最高幹部の1人に据えられた。多数の人びとを殺してきた男が、教会の指導者の1人となるというノースファイアー人事から、イングランド教会がこのレジームで占める位置づけと役割が明らかになる。
すなわち、全体主義レジームをイデオロギー的に支え補完するイデオロギー装置、精神的側面での民衆の監視ないし誘導をおこなう政治装置ということになる。
有力な聖界の指導者となっているリリマンには、醜悪な性癖があった。美少女の性的虐待である。教会組織は、リリマンのこの変態性欲を知悉していて、むしろ教会組織の権威を利用して、リリマンの犠牲となるべき美少女を調達する司祭を彼の腹心として宛がっていた。
イーヴィはいまやすっかり成熟した女性だが、今回、このリリマンを誘い出す餌として異常性癖の犠牲者を演じることになった。
リリマンは、犠牲者を用意した司祭から「今日は少し年のいった女性ですが…」と告げられて、いつもの部屋に入った。そこには、人形のような少女趣味の服装をしたイーヴィがいた。リリマンは、少女のような服装をした成熟した美貌の女性にいたく欲望を刺激された。
だが、イーヴィは、リリマンが変態性欲者とはいえ、Vに残酷に殺されてしまうことに疑問を抱いていた。それで、リリマンに襲撃の危機を告げようとする。けれども、リリマンはイーヴィの警告を「告解ごっこ」と勘違いして、なおのこと欲望をたぎらせてしまった。
そこにVが登場して、リリマンの過去の罪悪を断罪しようとした。イーヴィは、このあとの成り行きに怯えて逃げ出してしまった。司教の倒錯した欲望にさらされ権力者の醜悪な姿を知ったことも、Vが司教を暗殺する舞台を用意したことも、彼女の心をひどく傷つけたようだ。
Vは憐憫を示すこともなく冷酷にリリマンを殺害して、これまた死体の胸に赤いバラを置いて立ち去った。赤いバラは、ラークヒル収容所で病原ヴィールス事件にかかわった者たちへの警告、復讐の予告だった。
一方、Vの復讐心の残酷さに恐れをなして逃げ去ったイーヴィは、BTNの制作ディレクター、ゴードン・ディートリックのもとに逃げ込んだ。
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