V フォー ヴェンデッタ 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
社会状況の設定について
暴力組織になった警察
ガイ・フォークス
イーヴィとV
オールドベイリーの爆破
当局の宣伝報道
後手に回る独裁政権
番組ジャック
当局の情報操作
Vの隠れ家
熾烈な復讐戦
イーヴィの生い立ち
司教の殺害
死を待つ女性検視官
暴かれた真相 Vの誕生
ノースファイアーの謀略
イーヴィの試練
ゴードンの勇気
イーヴィの苦難
「ガイ・フォークス記念日」
Vの撹乱作戦

ノースファイアーの謀略

サトラーからダイアナの日誌を忘れろと命令されたフィンチ警視だが、彼はポリティシャンというよりも優秀な捜査官であって、事件の真相や真実を解明することに本能的生きがい(達成感)を抱いていた。だから、ラークヒル収容所の事件を手がかりに、そ冷然からの状況の動きがやがてノースファイアーによる全体主義的抑圧レジームの構築にいたる変動過程を分析し、背後に隠された陰謀や暴力を読み解いていくことになった。
  フィンチは、イーヴィとともに、Vの出現と復讐戦にいたる経緯を読み解いていく狂言回しのような役割を演じているようだ。

  ラークヒルでの病原ヴィールス人体実験がおこなわれる直前に、バイオテロ事件が続発し、テロ計画の容疑者・首謀者として多数の反体制派の人びとが逮捕され、収容所に監禁された。彼らのほとんどは、ヴィールス兵器の被験者となって殺されていった。
  だが、一連の事件は、ヴィールスの実験台として多数の人びとを収容所に押し込める一方で、バイオテロを口実としてノースファイアー政権が警察権力を一挙に強化し、市民権を大幅に抑圧するレジームを樹立していく契機となった。
  しかも、約8万人が疫病の犠牲となったセイント・メアリー事件で水源地にまかれたという病原ヴィールスは、その被害や致死性から考えて、ダイアナ・スタントンが開発していたヴィールスであろうと推測される。これに前後する、バイオテロや蜂起もまたノースファイアーによって仕組まれたものと見られる。

  ということは、いま警察官僚としてフィンチ自身が奉仕している政権は、権力拡大とレジーム転換のために多数の人びとを殺戮し、政治犯罪の罠に陥れて蹂躙する謀略を繰り返してきたということだ。まさに唾棄すべき、おぞましい権力犯罪であって、ノースファイアーの醜悪な実体を如実に物語る事態だった。
  あの、収容所全体を焼き尽くす火災によって、病原ヴィールスの培養施設も完全に燃え尽きたために、恐ろしい生物兵器は消滅してしまった。ということは、火災はVによるノースファイアーへの(その権力手段を削ぎ取っていくという)復讐の始まりだったのではないか。

イーヴィの試練

さて、ゴードン・ディートリックの家に匿われたイーヴィはというと。
 イーヴィは当局から指名手配された自分を匿ったゴードンが、政権の敵対者とみなされ、弾圧されるか捕縛される危険にさらされてしまったことを後悔し、ゴードンに詫びた。だが、ゴードンはイーヴィから頼られたことを喜んでいた。
  彼自身は、これまではノースファイアーの権力の恐ろしさに怯えて、政権が考える「ノーマルな人物」を演じ切ってきたことを後悔していた。ガイ・フォークスの仮面をかぶって政権に痛撃を与え、民衆が政権に抵抗し異議申し立てをおこなう勇気を与えようと奮闘していることに鼓舞されて、「自分らしさ」を回復しようとしているのだ。
  自分の存在証明と権力への批判精神を、ゴードンは自分のプロフェッショナリズム=職業において表現しようとした。テレヴィ番組のディレクター=作家として、ノースファイアーと党首のサトラーを痛烈に風刺する番組を制作したのだ。
  おりしも、その番組は、イーヴィが訪れた日の夜に放映されることになっていた。

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