シュリューターは、この乱闘騒ぎに乗じて、かねてから捕虜としての振る舞いについて対立関係にあった空軍の将校ノイヒルを排除しようとした。
騒乱にまぎれて、ュリューターの腹心のドイツ兵たちがノイヒルを取り囲んで殴る蹴るの暴行を加えた。
半殺しにされたノイヒルは、居留地から逃げ出そうとして鉄条網の近くまで逃げた。コナーはそれを発見して保護し、収容所の医務室――居留地の外で英軍の直接の監視下にある――に収容した。ひどい打撲と外傷を負っていた。
この医務室には、多数のドイツ兵が収容・加療されていた。以前から傷病で入所している者もいたし、今回の騒乱で傷害を受けた捕虜も大勢いた。なかには、シュリューターの命を受けて、ノイヒルに危害を加える者がいるかもしれない。
そこで、コナーは、同じドイツ兵捕虜による暴虐を受けたということから、ノイヒルを一般ドイツ兵とは別の病室に隔離して監視兵を配置した。というのも、ノイヒルはシュリューターの企図する陰謀について何か情報をつかんでいて、シュリューターの配下がその漏洩を恐れて、彼を排除しようとして暴行した疑いもあるからだ。
ノイヒルは、医務室に担ぎ込まれてから、昏睡状態のなかで「28人の潜水艦乗組員が…」という「うわ言」を漏らしていた。それは、シュリューターの脱走計画で収容所から逃れ出るメンバーの数だった。
シュリューターとすれば、ノイヒルをコナーが確保していることは、きわめて危険なことだった。そこで、仲間に暗殺を命じた。もちろん、怪我で入院している捕虜たちに命じてのことだ。
ある夜、ドイツ兵捕虜たちの病棟で喧嘩騒ぎが起きた。騒乱を鎮めようとして、ノイヒルの監視兵が乱闘に巻き込まれてしまった。その隙に、数人の捕虜がノイヒルの部屋に入り込み、首に紐をかけて縊死させてしまった。外見は「自殺」だったが、明らかに謀殺だった。こうして、コナーは貴重な手駒を1つ失った。
とはいうものの、ブリテン側にとって「28人の乗組員」という情報は大きな意味をもった。それが、おそらくは脱走する人数なのであろうということは読み取れるからだ。
そうなると、問題はいつ、どうやって、ということになる。
コナーは、これまでにドイツ兵捕虜が出そうとした手紙――ペリー少佐は、暗号による通信手段と考えて、手紙のすべてを押収して保管していた――を全部検査して、これまで捕虜たちがナチスの本部とどのような通信をやり取りしていたのか読み取ろうと試みた。
手紙=暗号の解読のために、情報部から暗号解読の専門官を派遣してもらった。だが、これまでに押収した手紙の量は膨大だった。解読は、脱走の決行の時に間に合うのだろうか。
それでも、脱走後、ブリテンから脱出する方法がウーボートらしいことは、解明された。 とはいうものの、ブリテン側にとって「28人の乗組員」という情報は大きな意味をもった。それが、おそらくは脱走する人数なのであろうということは読み取れるからだ。