フランクは、そういう因縁深いロッジャ・ファミリーに今度は警視庁の捜査班の責任者として、ふたたび近づくことになった。彼は、捜査ティームの若手刑事たちとは別に単独行動でファミリーに接近することにした。
ところで、主人公フランクの本名のファミリーネイムが「レゾーニ」、そして対抗する犯罪シンディケイトのファミリーネイムが「ロッジャ」というように、イタリア系である。より正確には、シチリア系のファミリーネイムである。
ことほどさように、フランスには多数のシチリア系移民の子孫たちが暮らしている。
ということで、この物語はシチリア・コネクションを背景にしている。フランス=パリのマフィア組織は、マルセイユあたりを経由して、シチリア・南イタリア、地中海方面、さらには中東・北アフリカ方面とのあいだに麻薬生産・供給・流通ルート(それに対応する資金ルート)を組織しているのだ。
そして、ファミリーの麻薬販売のネットワーク組織は、北欧や東欧を含めてヨーロッパ全体に広がっている。そして、巨額の麻薬密売や売春などによる巨額の送金や資金循環の経路は、リヨンを経由拠点として、スイスやルクセンブルク、リーヒテンシュタイン、モナコ、ベルギーなど、金融取引に関する規制がきわめて緩く、官憲の捜査や規制が届かない《自由な金融市場》を経由している。
そういう経路がマニ―ローンダリングのフィルターとなっていて、ノーマル――合法的な――な世界金融の市場メカニズムに統合されているのだ。
フランスの有力諸都市――パリ、リヨン、マルセイユなど――には、古くからシチリア系マフィアとかナーポリ系カモッラなどの犯罪組織が基盤や拠点を築いてきた。
シチリア系マフィアとのつながりといえば、『アンタッチャブル』やコッポラの映画などが禁酒法時代からの司法機構との闘争の経緯や歴史を描いてきたので、アメリカ合衆国の犯罪組織が注目されてきたが、フランスにも、同じかさらに古い歴史がある。
というのも、古くは13世紀から、フランス(パリの)王権は、地中海の覇権をめぐってイタリア諸都市やアラゴン=カタルーニャ王権(のちのエスパーニャ王室)と熾烈な闘争や駆け引きを繰り広げてきたからだ。中世からパリの権力装置は地中海に支配をおよぼそうとしてきたのだ。
フランス王国の統一さえままならないパリの王権ではあったが、地中海とイタリア、ことにシチリアへの勢力拡大を執拗に求めてきた。パリとシチリアとは古くから因縁浅からぬ関係にあるのだ。
パリやリヨン、マルセイユなどフランスの諸都市にシチリア系移民社会が形成される経緯を見ておこう。