フランク・リーヴァ(本名フランソワ・レゾーニ)の家系は、貧困や抑圧、戦乱を逃れてパリに移住した人びとの末裔なのだろう。ロッジャ家は、マフィアの犯罪ネットワークを携えて移住したのだろう。
だが、この物語のなかに描かれるパリのマフィアの面々は、ファミリーや家族兄弟との絆よりも、おのれ個人の権力や栄誉を何よりも求める。ファミリーや家族の絆は、おのれの権力の拡張や誇示のための手段でしかない。おのれの欲のためには、血縁者を犠牲にすることも厭わない。
その点が、現代フランスらしい味付けなのかもしれない。
さて、フランク・リーヴァの弟、ルネ・レゾーニの暗殺と前後して、ロッジャ・ファミリーの先代の首領ルイ・ロッジャが爆殺された。グザビエーの指摘によれば、シンディケイトを構成するパリのマフィア・ファミリーのあいだで抗争が始まったらしい。
フランクは相次ぐ殺人事件の捜査のため、ロッジャ家の面々がルイの埋葬式をこなっているところに現れて、ルイの跡目を引き継いだノルベールとその息子で、今やファミリーの金融部門のトップにおさまっているマクシームと顔を合わせた。当然、きわめて険悪な対面となった。
ロッジャ・ファミリーの表向きのドンはノルベールだが、もはや老衰が進み気力がなえてしまっていて、ファミリーとシンディケイトの実質的な支配者は、マクシームとなっていた。
マクシームは、表向きは「合法的な金融シンディケイト」のCEOだった。しかし、その「表の顔」の裏では、ロッジャ・ファミリーの闇の経済――麻薬密売などの組織犯罪――にかかわっていた。
とはいえ、直接には犯罪活動には手を染めずに、闇の実務をおこなう下部組織に資金提供をおこない、その利潤を吸い上げたり、マニ―ロンダリングを担っていた。
このような複雑な経営活動とファミリー・ビズネスの管理の実務を統括しているのは、だが、マクシームではなく、その副官=ブレイン、ルノー・ベルソンだ。企業の表向きのトップとしての名誉を担い、贅沢を誇示する役割を好む人物と、陰に回ってそういう人物を操るのが好みの人物がいるということだ。権力欲とはいっても、求める内容に違いがあるのだ。
ルノーは、先々代の首領、ルイ・ロッジャの時代からファミリーの顧問役を担っていた。ルイの跡を継いだノルベールの代にも顧問役を担い、そして、今はその息子マクシームの指南役をしている。
フランク・リーヴァは、マクシームの補佐役ルノーがファミリーの闇の側面での組織運営や作戦の黒幕と見て、彼の経歴や背後を調べたが、国家警察のデイタベイスを調べても詳しいことはわからなかった。というよりも、警視総監も含む警視クラス以上の権限がなければ、情報にアクセスできないのだ。
日本と同様、フランスでも地方自治体の警察組織の上に国家の警察――日本では警察庁と国家公安委員会――があって、国民的規模での警察権力の一体性・凝集性を確保しているらしい。
国家警察の上層部が、意図的にルノーという人物の情報について蓋をかぶせているらしい。
とかくするうちに、ロッジャ・ファミリーの表の顔=首領、ノルベールも暗殺されてしまった。ロッジャ・ファミリーとその周辺のマフィア組織の内部で権力抗争が起きているのか。
では、ファミリー以外の勢力からの挑戦なのか。それとも、シンディケイトを完全に支配しようとするマクシームの謀略なのか。